本稿では,知能の理論について考察する.知能の理解には,確率微分方程式で記述される神経回路の力学系,チューリングマシンで記述されるアルゴリズム,外界の未知変数のベイズ推論に関する理解が重要である.近年の理論研究は,ある一般的なクラスの力学系とチューリングマシンは,どちらもヘルムホルツ自由エネルギーを最小化する過程として表現できることを示している.このことは,これらの過程が外界の変分ベイズ推論を行っていることを示唆しており,リバースエンジニアリングにより,変分自由エネルギーの具体的な関数型を同定できる.さらに,ベイズ推論と万能チューリングマシン双方の特性を持つ双完備力学系とその1例である正準神経回路を導入し,それらのエネルギー準位と知能の創発の関係性について考察する.最後に,理論の実験的検証の可能性と未解決問題について議論し,結びとする.