2025 年 32 巻 2 号 p. 108-114
大脳皮質の各領域は白質神経線維束によって構造的に結合しており,これらの結合をエッジとする巨視的な脳構造ネットワークを介して領域レベルの神経信号が領域間でやり取りされる.近年「ネットワーク神経科学」と呼ばれる神経科学とネットワーク科学が融合した学際的な研究分野において,この脳構造ネットワーク内の領域間通信ダイナミクスを,ネットワーク科学分野のアブストラクトな動的モデルを用いて近似的に記述することが試みられている.本稿では,各モデルで仮定された領域レベルの神経信号のネットワーク内伝播に関する近似・仮定の違い,および同信号のデータ伝送に関する近似・仮定の違いの観点から,はじめに既存の領域間通信モデルを整理して概説する.続いてネットワーク内伝播についての近似・仮定とデータ伝送についての近似・仮定の両方を考慮したモデリング研究の一例を紹介する.最後に脳構造ネットワーク内の領域間通信ダイナミクスのモデリングにおける現在の課題や将来の方向性について述べる.