抄録
日本列島では最新の地質時代である第四紀において, 活発な地殻変動と大きな侵食速度のために, 大きな地形・地質布の変化が生じてきた. そして今後もこうした変化は継続し, その結果, 動水勾配や水理地質構造を通じて地下水の流動や水質にも影響が生じると考えられる. その影響の評価が安全で現実的な高レベル放射性廃棄物の地層処分の実現可能性を考える上で重要な問題である. そのためにまず, 将来数万年間について評価対象地域の最大侵食深や平均侵食深を予測する必要がある. 過去に生じた侵食の特徴を詳しく統計的に解析することが, 将来の侵食量を予測する上で基礎データである. しかし, こうしたデータを得るためには, 調査手法の開発も含めて課題が多い.
将来の侵食量の予測可能性を検討する一例として, 初期形状が比較的正確に推定できる海成段丘を対象に, 開析谷の体積から計算した侵食速度と隆起速度との関係を解析した. また, 丘陵などの侵食に関するデータも併せて検討した. これらのデータからは, 隆起した陸地の体積のうち侵食される割合は, 一般に離水時 (段丘化) から最初の12.5万年間では10~20%程度である. この比率は, その後の10万年では数十%程度に増加し, 最終的に隆起速度と侵食速度は, 丘陵では数十万年, 山地では100万年程度で平衡状態に達する.