本稿は,有機農業と現代の小農・家族農業について,国内外の研究成果に触れながら,今日の農業政策をめぐる論争に関わる4つの論点を提示する.第一に,「有機農業の多様化」と呼ばれる現象について,これまで有機農業研究において論じられてきた有機農業の慣行化論および二極化論において十分に論じられてこなかった非経済的要素を考慮した良好なマッチング論の視点の重要性を論じる.第二に,国内外の農業政策で目指すべきとされる多様な農業の「共存」という言説をめぐって,その有効性と限界を検討し,農村空間における多様な農業の「対抗」という現実,および「共存」を目指す具体的政策の中身を検証する.第三に,目指すべき農業の方向性として慣行農業でも有機農業でも適用される経営指標について,既存の生産性/効率性指標の課題を指摘し,経済的指標に加えて社会的指標と環境的指標を導入することを提案する.第四に,上述の3つの指標で農業経営を再評価した場合,これまでは政策的支援の対象から捨象されてきた小規模・家族農業に優位性があることを示し,そのことが近年,欧米や国連機関等において小規模・家族農業を支援する潮流に結びついている状況を描く.