有機農業研究
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【論文】
有機ダイズ生産圃場で見られた要素欠乏症とみられる生理障害の同定と発生要因
関口 哲生田澤 純子三浦 重典
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2023 年 15 巻 2 号 p. 51-65

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抄録

収量が低迷している有機ダイズ栽培の技術的な課題を把握するため,東北,関東,北陸地域の11の有機ダイズ組合で調査を行った.その内,A, B, Cの3組合の圃場で生育中のダイズに生理障害が観察された.

A及びB組合の圃場では,葉脈間が淡緑から黄色となる障害株が,C組合の圃場では,葉身の縁が黄化し,外側または内側に湾曲する障害株が観察された.生理障害の同定と障害要因を明らかにするため,障害株と健全株の作物体と直下の土壌の化学分析を行い比較検討した.

A組合の障害株は葉身のマンガン(Mn)濃度,土壌の交換性マンガン(Ex-Mn)濃度が顕著に低く,Mn欠乏症を示す濃度領域にあったこと,土壌pHは7を超えていたこと,葉身のMn濃度は障害が重いほど低い関係を示したこと,他の要素には生理障害との関係は認められなかったこと,外観症状の特徴からMn欠乏症と考えられた.高pHに起因するMn欠乏症であることを確認するため,硫黄及び硫黄+Mn肥料の施肥試験をした.両試験区とも無施用区の対照区と比べ,栽培期間中の土壌pHは有意に低下し,土壌のEx-Mn, 葉中のMn濃度が増加し,また障害症状は見られず収量は増加した.これらの結果は高pHに起因するMn欠乏症であることを支持するものと考えられた.両施肥試験で地上部生育,収量に有意差はなく,硫黄施用のみで障害が改善できると考えられた.もみ殻鶏糞堆肥の長期連用により土壌pHがアルカリ化しMnが不溶化したことが,Mn欠乏症の主な発生要因と考えられた.

B組合の障害株は,葉身のMn, 土壌のEx-Mn濃度が顕著に低く,Mn欠乏症を示す濃度領域にあったこと,他の要素には生理障害との関係は認められなかったこと,外観症状の特徴から判断してMn欠乏症と考えられた.B組合では,Mnが溶脱し易い土壌の性質に加え,ぼかし肥料の施用量だけではMn供給量が十分ではなかったことが欠乏症発生の主な要因と推測された.

C組合の生理障害は,葉身のカリウム(K)と土壌の交換性カリ(Ex-K2O)濃度が低くどちらもK欠乏症を示す濃度領域にあったこと,外観症状の特徴から,K欠乏症と考えられた.Ex-K2O濃度が欠乏領域にあり,無肥料による栽培条件でカリの投入量が十分でなかったことがK欠乏の要因と推察された.

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© 2023 日本有機農業学会
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