抄録
月齢7か月女児.出生時よりみられたまだらな褐色斑と,生後5か月から搔破部位に生じる膨疹を主訴に当科を受診した.初診時,全身にびまん性に認める褐色斑はDarier徴候陽性であった.癒合傾向があり,結節病変はみられなかった.病理組織学的に,表皮基底層のメラニン沈着と,真皮浅層血管周囲にc-kit陽性の肥満細胞が多数浸潤していた.末梢血液像に異常なく,超音波検査で肝脾腫はみられなかった.小児科医による診察の結果,皮膚以外に異常所見は指摘されなかったため,当初は斑状丘疹状肥満細胞症と診断した.レボセチリジン,d-クロルフェニラミンマレイン酸塩を内服するも,入浴や搔破により膨疹が誘発され,1歳時から躯幹の褐色斑上に水疱やびらんが多発した.びまん性皮膚肥満細胞症に診断を改め,抗ロイコトリエン受容体拮抗薬であるプランルカスト水和物の内服追加により水疱新生は抑制された.皮膚肥満細胞症は,活性化した肥満細胞から放出される種々のメディエーターにより症状が誘発されると考えられており,ヒスタミン以外のメディエーター産生やその作用の抑制も治療選択肢となりうる.皮膚肥満細胞症は乳児に好発するため使用できる薬剤は限定されるが,自験例のように抗ヒスタミン薬内服で治療が不十分な症例には,脂質メディエーターであるロイコトリエンをターゲットとする抗ロイコトリエン受容体拮抗薬の追加内服により水疱新生などの皮膚症状の抑制が得られる可能性がある.