2024 年 54 巻 2 号 p. 89-97
背景:働き盛り世代における脂質異常症の実態や他の危険因子との関連性に関しては,いまだ不明な点が少なくない.
対象と方法: 2010 年度および2020 年度の定期健康診断における血液検査値がすべて確認できた東武鉄道株式会社社員のうち,2010 年度に脂質異常治療薬を服用していなかった3580 例を後ろ向きコホートとして解析対象とし,2020 年度に脂質異常治療薬を服薬中の651 例(薬物治療群)とこれらを服用していない2929 例(非薬物治療群)に分けて,LDL-C の推移と他の心血管リスク因子との関連性について検討した.また職種による違い,および2010 年度のLDL-C (mg/dL) をA: < 120,B:120-139,C:140-159,D:160-179,E: ≧ 180 の5 カテゴリーに分けての検討も行った.
結果:1)LDL-C には職種間の差はなかったが,駅務グループではBMI とHbA1c が有意に高く,乗務グループでは年齢が有意に低く,事務グループでは血圧とeGFR が有意に低いという特徴があった.2)薬物治療の有無にかかわらず,BMI,HbA1c の有意な上昇,収縮期血圧,尿酸,eGFR の有意な低下を認めたが,BMI,HbA1c の上昇率は,薬物治療群で顕著であった.3)2020 年度のHbA1c ≧ 6.5%あるいは糖尿病薬物治療中の者の割合は,薬物治療群では非薬物治療群のおよそ4 倍であった.4)2010 年度のカテゴリー別に2020 年へのLDL-C の推移を見ると,薬物治療群ではカテゴリーA で上昇したが,B,C,D,E いずれも有意に低下していた.一方非薬物治療群においても,A で有意に上昇,B では不変であったが,C,D,Eではいずれも有意に低下していた.
結論:本研究の結果,一般成人における脂質異常症の実態ならびに脂質異常治療薬の有用性と問題点が浮き彫りになり,治療戦略を立てるうえで考慮すべきと結論された.