産業医学
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精神的および身体的負荷時におけるFDP (Fibrin and Fibrinogen Degradation Products)の変動 : II. 実験的諸負荷時におけるFDPおよび他の諸疲労検査指標の観察
大本 美彌子古市 英今井 常彦野村 良治外間 安次五十嵐 紀子
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1982 年 24 巻 6 号 p. 616-627

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抄録

疲労度の測定方法には心理学的機能や生理学的機能,生化学的機能検査による方法があり,多くの指標が知られている.血液凝固時間測定もその一つであるが現今ではほとんど用いられていない.しかし精神的刺激や運動が血液凝固・線溶系に影響をおよぼすこと,すなわち凝固系VIII,XII因子の活性,線溶系因子plasminogen, plasminogen activator等の増加が知られている. 筆者らは,前報でスポーツ選手のトレーニングの前後において尿中FDP値が精神的・身体的負荷の大小に関連して大きく変動する様態を知りえたので,FDPの疲労度指標としての応用の可能性を想定し種々の負荷条件下に検討した.精神疲労を想定して学科試験,注意集中ゲーム,単純書き写し作業を,身体的疲労を想定してランニング,サウナ入浴を選んだ.これらは短時間負荷で疲労としても慢性-蓄積疲労とは異なる急性-一過性のものとした.観察には現在有効とされている他の指標,尿中カテコールアミン(CA),フリッカー値(CF),応答反応時間(RT),内田クレペリンテスト,自覚症状調査も併せて行い,つぎの知見を得た. 1) 精神的,身体的いずれの負荷においても血中・尿中FDP値は共に一定の変動を示した. 2) FDPの変動は,生化学的指標の一つCAの負荷前後の変動に比較的よく符合した. 3) 生理学的指標の一つCF,RTの低下の認められない程度の低負荷時においてもFDP値は変動した. 4) CAやCF,RTに変動を示さぬCaseでもFDP値変動は自覚症状調査による症状の訴え率の大小によく符合した. 以上,血中・尿中FDP値は一過性疲労,とくに精神疲労をも反映する生化学的指標として,また個人特性がよくあらわされるものとして,すなわちsensitivity, specificityの両面を比較的満足させえて,かつ特殊技術を要せず簡易な方法で行えるなど現場で使用可能であり,産業衛生面,配置適性のスクーリングや一連続作業時間設定に関するテストに他の指標と併せて応用できるものと考えられる.

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© 社団法人 日本産業衛生学会
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