情報管理
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リレーエッセー
インフォプロってなんだ? 私がインフォプロに期待すること 第36回
加藤 仁一郎
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2012 年 55 巻 2 号 p. 123-124

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情報調査をする体制は,通常,調査依頼者(事業部や開発チーム),インフォプロと,必要に応じて参加する知財リエゾン(現場への知財啓蒙・指導,特許出願・中間処理業務などを担当する知財担当者)からなる。調査結果の質を考えると,インフォプロは,盲目的に調査依頼者の要求に答えるのではなく,事業や開発の各段階でどのような調査が必要かをよく認識し,その上で必要な意見具申をして適切な調査をすべきである。また,インフォプロは,調査の活用についてもしっかり認識する必要がある。

私は長年,化学系会社の研究所で技術開発をマネジメントし,現在は知的財産に関わるマネジメントを行っている。開発現場,また知財現場から得た経験から,インフォプロが備えるべき視点,行動について,私なりの考え方を述べてみたい。

開発における調査について

近年,特許調査ツールの高度化により,個々の粗い文献探索やおおまかな出願動向調査などの,高度な網羅性が不要な調査については,費用や時間をかけずに開発者自らがある程度実施できるようになった。ただし,このような調査もできない開発者がいることも事実である。まずは,この部分の現場教育,浸透をインフォプロ自らが進めるべきである。

一方,インフォプロが直接的に関わるべき重要な調査は,概ね以下の(1)~(4)にまとめられる。調査結果の精度を高めるためには,調査を進めるための前提,例えば調査目的,調査範囲,対象国,期間などを明確に定め,目的に合った調査を行うことが必要である。この前提は,検討が進むと変化することがあるので,絶えず関係者間で再確認すべきである。必要に応じて,調査依頼者をリーダーとする調査プロジェクトを作ることも有効な方法である。事業部や開発チーム,知財リエゾンと日ごろからよく意見交換し,いい関係を作っておくことも大切である。

(1) 開発開始前の段階(遡及調査)

新規なテーマを開始する時の遡及調査は,最初から細かな調査をするよりも,対象事業を大きく俯瞰することが重要である。このような場合は,関連特許や論文を素読して主要会社ごとに時系列で開発動向をおおまかに知ることが重要である。

この調査において,開発者は,開発アイデアがすでに特許などの文献にあるか否かをまず確認する必要がある。もしあった場合,開発者は,アイデアの修正や補強ができないかを判断し,行動を起こさなくてはいけない。

以上の遡及調査においては,目的に対し短時間で過不足のない調査をする必要がある。インフォプロは,テーマが俯瞰できる最適な検索式を立てて,依頼を受けた後,短期間に調査結果を開発者に提示できるようにすべきである。

(2) 開発開始後,早期段階(遡及調査)

テーマの事業性,独自アイデアがあり,他社問題が少なく,問題を回避できる見込みがある場合,開発はスタートする。インフォプロを含む開発チームは,開発が本格始動した段階で,(1)の概要調査を強化した網羅的調査を行う必要がある。これについては,妥協なしに,製造国,販売対象国,すべての詳細調査が必要である。この調査は,データベースが基本となる。データベースが不十分な国については,現地の特許事務所,専門の調査会社による調査も必要である。

開発者は,見出された問題特許の対応のみならず,そこから得られた技術的知見をうまく開発に適用することも大切である。

この調査は開発が本格化してから早めに完了させ,開発技術の変更が起こった場合は,遅滞なく前提や検索式を見直して追加調査をすべきである。

(3) 開発開始後,および事業化段階(継続調査)

インフォプロの協力・指導のもと,開発者,工場技術者は,月1回程度のペースで,継続調査をしなくてはいけない。この調査の位置づけは,(2)とほぼ一緒であり,問題特許,関連特許のウォッチングも確実に行う必要がある。

ライバル企業の動きが活発であれば,開発者は自社開発技術の出願とは別に,ライバル企業対策も考えるべきである。

(4) その他の重要調査

新規事業の知財デューデリジェンス,国内および海外出願のための先行文献調査,無効化資料調査,侵害防止調査など,事業や開発に直結した調査がある。

インフォプロにお願いしたい心構え

企業における事業戦略の1つが知財戦略である。調査はその知財戦略の根幹である。インフォプロは,対象とする事業・開発の狙い,技術の特徴について,依頼者からしっかりと説明してもらい,調査に先立って大まかに把握しておくことが必要である。これによって調査に対する心構え,前提がはっきりする。その上で,開発段階に応じた上記の(1)~(4)の調査をしっかり遂行することが重要である。

開発者あるいは,その開発チーム全体が,情報調査や知財全般に詳しくないケースがある。このような場合は,(1)~(4)の各調査の重要性をしっかり関係者で理解することが必須である。知財マインドが弱い者は,実験などの通常業務のことばかり考え,調査をおろそかにする傾向がある。そのような場合は,その上司に対し臆することなく調査,さらには知財の重要性を説き,上記の調査を実行してほしい。これもまたインフォプロの業務の一環である。これにより,組織の知財力も向上してゆく。

事業や開発のグローバル化,競争激化に伴い,情報調査の重要性はますます高まっている。インフォプロは調査スキルを高めるのは当然として,視点を高く持って主体的に,ここで述べたことは最低限実践すべきである。特に,「高い視点」と「主体的」はキーワードである。もし自分がこの事業やこの開発をするならどう行動するかを,絶えず考えてほしい。

 
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