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カラーユニバーサルデザイン 色覚バリアフリーを目指して
伊藤 啓
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2012 年 55 巻 5 号 p. 307-317

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著者抄録

遺伝子の変異や目の疾患によって色の知覚が異なる人が,日本には500万人以上存在する。これらの人は,特定の組み合わせの色が識別しにくい以外に,赤い表示を見落としやすい,色名がわからないなどの不便が生じる。フィルターやパソコンソフトで提供されているツールを使うと,こうした色の見分けにくさを疑似体験できる。色を使ったデザインを行う際は,これらのツールで確認しながら,できるだけ見分けやすい配色を選ぶ,形の違いなど色以外の方法を併用して情報を伝える,色名を表記するなどの工夫を行い,伝えたい情報が誰にでも理解してもらえるようなカラーユニバーサルデザインに配慮する必要がある。

1. はじめに

電子技術の進歩により,色を多用したデザインを誰もが気軽に制作し,配布できるようになった。電気製品の操作パネルや携帯電話などの操作画面,グラフや地図,ホームページ,PDFで配られる文書ファイル,建物や公共施設の案内サインなど,近年ではカラーでないものを探す方が難しい。しかし,色の見え方は人によって必ずしも同じではない。さまざまな理由で色の見え方が一般の人と異なる人が,日本には500万人以上,世界には数億人存在する。これらの人にとって,色に頼ったデザインが安易に増えることは情報取得において従来よりバリアが増えてしまうことにつながりかねない。また一般の人にとっても,たくさんの色をやみくもに使ったデザインは,かえってわかりにくくなることがある。多様な色の見え方に配慮し,なおかつ一般の人にもわかりやすいデザインを行うカラーユニバーサルデザインが,情報の送り手に求められている。

2. 色の見え方の多様性

光は波長400~700ナノメートルの電磁波で,目の網膜にある視細胞によって検出される。視細胞には夜間など暗いところでだけ働く高感度の「桿体(かんたい)」と,明るいところだけで働く低感度の「錐体」の2種類がある。桿体には1種類の細胞しかないが,錐体には長い波長(主に黄緑~赤)を主に感じるL(long)錐体,中間の波長(主に緑~黄)を主に感じるM(middle)錐体,短い波長(主に紫~青)を主に感じるS(short)錐体の3タイプがある。どのタイプの錐体がどれくらい強く反応するかを比較することで,脳は物体の色を判断している。

しかし,遺伝子の個人差やさまざまな目の疾患によって,どのような錐体細胞を持っているかは人によって異なる。これによって生じる色の見え方のさまざまなタイプを見てみよう。

2.1 C型(Common type,一般型)

3種類の錐体をすべて持っている人が一般型で,日本では男性の95%,女性の99.5%以上を占める。3種類の細胞の反応から色を判断するので,紫から赤までの色を精度よく識別することができる。

2.2 P型(Protanopia,1型)

L錐体とM錐体を特徴づける遺伝子はX染色体に並んで乗っているが,このうちL錐体の遺伝子がない人がP型強度(1型2色覚),L錐体とM錐体の遺伝子の中間のものに置き換わっている人がP型弱度(1型3色覚)である。男性ではX染色体が1本しかないために頻度が高く,日本では強度弱度あわせて1.5%程度存在すると考えられている。このうち3分の1程度が強度である。女性では1,000人に1人程度しかいない。

赤い光を感じる視細胞がないため,赤を暗く感じる特徴がある。また,L錐体とM錐体の反応の差を色の判断に使えないため,赤みの差がわかりにくい。視細胞の総数自体は変わらないので,視力に影響はない。

2.3 D型(Deuteranopia,2型)

P型とは逆に,M錐体の遺伝子がない人がD型強度(2型2色覚),L錐体とM錐体の遺伝子の中間のものに置き換わっている人がD型弱度(2型3色覚)である。あわせて日本人男性の3.5%程度存在すると考えられている。そのうち強度は3分の1程度である。女性ではP型よりも多いが,数百人に1人である。

P型の人と異なりD型では赤を暗く感じることはないが,L錐体とM錐体の反応の差を色の判断に使えないため,赤みの差がわかりにくい。また,P型と違い赤が明るく見えるため,赤と橙,橙と黄色の差がかえってP型よりもわかりにくい。視細胞の総数自体は変わらないので,視力に影響はない。

2.4 T型(Tritanopia,3型)

S錐体の遺伝子を持たない人で,10万人に1人以下の割合である。S錐体とL/M錐体の反応の差を色の判断に使えないため,青みの差がわかりにくくなる。原因になる遺伝子はX染色体とは別の染色体にあるため,頻度に男女の差はない。また強度と弱度の差はない。

2.5 A型(Achromatopsia,1色型)

錐体を1種類しか持たない人や,錐体がなく桿体しか持たない人もいる。これも10万人に1人以下の割合で,男女差はない。色は明暗としてのみ感じることができ,色合いの違いは判別できない。また,桿体はL錐体やM錐体よりも短い波長での感度が高いため,赤を暗く,青を明るく感じるなど明暗の感じ方が一般と異なる。A型の多くは,視力がメガネでは補正できないほど低下した弱視(ロービジョン)になる。

以上の5タイプは生まれつきの遺伝子で決まるため,血液型と同様に一生変化することはない。

図1 視細胞の分光感度特性と色覚の種類

2.6 網膜の疾患による色覚変化

未熟児網膜症,網膜色素変性症,緑内障,糖尿病性網膜症,黄斑変性症などの網膜の病気では,視細胞の数が減るために視力が大きく低下し,視野が小さくなる「弱視」になる。疾患の進行に応じて視力低下が進み,最悪の場合失明する。各種の疾患を合計すると,日本で数十万人に達する。

S錐体はもともと全体の数パーセントしかないため,疾患で視細胞の数が減ると,最初に全滅に近い状態になる。このため弱視の人の多くは,青みの差を感じにくいT型に似た色の見え方になる。

2.7 水晶体の疾患による色覚変化

白内障は目のレンズである水晶体が黄色く濁る病気で,黄色や茶色のサングラスをかけたように,青が黒っぽく見えたり,白と黄色が区別しにくくなったりする。また,濁ったレンズで光が散乱するために,視力が低下する。白内障は日本では150万人程度存在し,高齢者に多く,年齢とともに進行する。しかし遺伝子の違いや網膜の疾患による場合と異なり,白内障は人工レンズを入れる手術をすれば色の見え方は回復する。

2.8 色弱の頻度

これらさまざまな色覚を総計すると,日本で500万人以上が一般とは異なる色の見え方をすることになる。このうち特に2.2,2.3で紹介したP型とD型の2種類は,総称して赤緑色弱と呼ばれ,日本では男性の5%,女性の0.2%を占める。欧米では日本より多く男性の8%程度で,北欧などでは10%近い(逆にアフリカでは2%程度と日本より少ない)。日本全体では300万人以上,世界では2億人以上が色弱だという計算になる。

車椅子の人や目が見えない人は人数も少ないので,そういう人がいる場合にだけ何らかの対処をするという対策も成り立つ。しかし色弱や弱視は人数が多い。1日に4,000人が利用する施設や製品,書籍,Webサイトなどでは,毎日100人の色弱と20人の弱視,50人の白内障の利用者がいる概算になる。従ってこれらのデザインをする際は,それを見る人の中に常に色弱や弱視の人がいると考える必要がある。

なお,色弱は以前は色盲と呼ばれていたが,差別的な語感があるということでさまざまな代替表現が使われている。行政分野では色覚障碍(しょうがい),医学分野では色覚異常の用語が使われているが,当事者の間には,色の見え方の違いは血液型などと同様に遺伝子の多様性の問題であって,障碍や異常ではないという意識も強い。現時点では,「色の弱者」という意味で色弱という表現が最も穏当と思われる。

3. 色弱や弱視の人が感じるバリア

色弱や弱視の人には大きく分けて,以下のような不便がある。

3.1 一般の人には大きく違って見える色が,似通って見えることがある

一般の人が3種類の錐体を駆使して色を見分けるのに対し,色弱や弱視では使える錐体の数が少ないので,見分けにくい色が生じる。P型,D型,T型の人が見分けにくい色は,CIE xy色度図の上でほぼ一直線に並ぶ。このような線を混同線という(図2)。混同線はタイプごとに,xy色度図の異なる点を中心とする放射状になる。同じ混同線の上に来るような色の組み合わせを使わないことが,カラーユニバーサルデザインの基本の1つである。

図2 CIE xy色度図と混同線

混同線の図を見るとわかるように,色弱で人数が多いP型とD型は,赤から緑の範囲では見分けにくい色の組み合わせがほぼ共通である。赤と緑,黄色と黄緑,オレンジと明るい茶色,濃い茶色と赤や緑,などが見分けにくくなる(図3)。また,P型では赤が暗く見えるため,赤と黒が区別しにくい(図1C)。オレンジに近い赤ほど,明るく,見やすくなる。交通信号機はこれに配慮して,赤信号をオレンジに近い色にしている。

図3 チェックツールによる見分けにくい色の疑似体験

緑の中では,黄色みの強い色(図2のxy色度図の右上方)は赤と紛らわしく,青みの強い色(色度図の左上方)は赤と間違えにくい。交通信号機はこれに配慮して,緑信号を赤と間違えないように青みの強い色にしている。

色度図の中央付近を通る混同線上に位置する,水色とピンクや,グレーと淡い水色や緑なども,混同が起こりやすい(図3)。

青から赤紫の範囲では,P型とD型は混同線の方向がだいぶ異なる。P型では青と紫を紛らわしく感じるのに対し,D型では,一部の赤紫をグレーや緑と紛らわしく感じる(図2)。

弱視ではT型に近い見え方になるため,見分けにくい色はP型やD型とはかなり異なる。図2の混同線の向きからわかるように,濃い青と青緑,明るい青と黄色などが紛らわしくなる。また,濃い赤を暗く感じ,黒と混同する傾向がある。

3.2 小面積のもの,離れたものほど色の識別が難しい

小さな色見本チップではわずかな差に見える色が壁一面に塗ると大きく違って見えるように,一般に色の面積が小さいほど差がわかりにくくなる。同様に色弱の人も,小さなサインや細い線,細い文字ほど,色の差がわかりにくい。

また,近接していれば区別できる物も,数センチ以上離れると区別が難しくなる。例えばグラフや路線図では,図中の色と離れた凡例の色を対照するのが難しい。

3.3 電光掲示やLEDなどの色は特に間違えやすい

人間の色の感じ方は,物体の表面で反射する色(物体色)と光るものの色(光源色)でかなり異なる。物体の色を見るときは,色が異なるさまざまな物が一度に視野に入るために,明度の差を色の判別に利用できる。例えば,赤いリンゴと黄色いレモンでは常にレモンの方が明るいので,赤と黄色を間違えることはない。一方LEDなどの光源では光量が自由に増減できるため,普通の明暗関係とは矛盾した「明るい赤色」や「暗い黄色」を作ることができる。このため,明るさの違いを色の識別に使うことができない。パイロットランプや電光掲示では,色弱の人には赤から緑の範囲が事実上1色にしか感じられない。

3.4 赤が「目立つ色」に感じられず,赤い表示に気づきにくい

一般色覚の人にとって,赤は他の色とは大きく異なる特別な色で,真っ先に目に飛び込んでくる。しかし色弱や弱視の人にとって,赤は特に大きく目立つわけではない。そのため,黒文字の文章の中の赤文字の強調表示や,危険などの警告表示を見逃しやすくなる。

3.5 色の名前がわからない。色名で指示されても,どの部分かわからない

色名とは,一般色覚の人が同じように感じる色を1つにまとめて表現する言葉である。ところが色弱や弱視の人は色の感じ方が大きく異なるので,違う色名で表される2つの色を区別できなかったり,逆に同じ色名で表される色の中に大きな違いを感じたりする。このため,色弱の人の多くは子どものころに色名を間違えて友達からからかわれたりした経験があり,自分から色名を言うことを避ける傾向が強い。間違いを防ぐためには,色名が明記してあるのが望ましい。

4. カラーユニバーサルデザインのチェックツール

一般の色覚の人には,色弱や弱視の人が持つ色の見分けにくさの感覚はどうしても理解しにくい。見分けにくい色がCIE xy色度図の上でほぼ一直線に並ぶといっても,日常のデザインの中で色度図を使うのは実用的でない。これをカバーするのが,各種用意されているチェックツールである。これらのツールはどれも,色弱の人が紛らわしく感じる一連の色を1つの色に置き換えて表示することにより(図4),「それらの色が見分けられないとどうなるか?」を示してくれる。

図4 チェックツールの原理と使用上の注意

4.1 フィルターを利用したメガネ型チェックツール

最も簡便に使えるのがサングラス状のフィルターを利用したツールで,このフィルターを通して景色を眺めるだけで,色弱の人の模擬体験ができる。バリアントール(http://www.variantor.com/)というツールが市販されており,P型用とD型用がある。このツールはカラー印刷物に含まれる程度の色の範囲では十分な性能を持つが,LEDのように狭い特定の波長の光しか含まない色ではうまく使えない。例えばLED赤信号のオレンジ色はバリアントールを通すと非常に暗くなってしまうが,色弱の人には十分に明るい色に見えているので,注意が必要である。

4.2 携帯電子機器を利用したチェックツール

iPhoneやiPadの内蔵カメラで撮影した画像をソフトウェアでリアルタイム処理し,これらの機器を対象物にかざすだけで色弱の見え方を模擬体験できる「色のシミュレータ」が提供されている(http://asada.tukusi.ne.jp/cvsimulator/j/)。アプリは無料でダウンロードできるので,これらの携帯電子機器を日ごろ使っている人には最も安価で簡便なツールといえる。

フィルター型と違いLEDなどの光の色も問題なく変換できる。ただし携帯電子機器のカメラやディスプレイはコストや消費電力の関係で性能があまり高くないため,精度の点では次に紹介するものより多少劣る。

4.3 パソコンを利用したチェックツール

デジカメで撮影した画像や,グラフィックソフトで作成した画像をチェックするには,パソコン上のソフトが便利である。デザイン業界の定番になっているフォトショップやイラストレーターには,印刷時の色変化を見る校正機能と同じ「ビュー→校正設定」のメニューに,標準で色弱用のチェック機能が提供されている。オリジナル画像で異なる2色のものが校正画面では似たような色に変化してしまう箇所を探し,その部分の色を調整することで,見分けやすい配色を実現できる。

画像解析ソフト「ImageJ」(http://rsb.info.nih.gov/ij/)とプラグイン「Vischeck」(http://www.vischeck.com/)の組み合わせや,東洋インキの「Uding」(http://www.toyo-uding.com/),富士通の「カラードクター」(http://jp.fujitsu.com/about/design/ud/assistance/colordoctor/)など,フリーのソフトウェアも提供されている。

4.4 液晶モニターを利用したチェックツール

色変換の機能を液晶モニターに組み込んだ製品も市販されている(ナナオ「ColorEdgeシリーズ」,NEC 「LCD-PA」シリーズ)。プレゼンテーションソフトやDTPソフト,ホームページ制作/閲覧ソフトなど現行でチェックツール機能を搭載していないソフトでも,リアルタイムに色の違いをチェックできる。また静止画だけでなく,放送やビデオなどの動画のチェックにも使うことができる。

4.5 チェックツールの限界と注意点

チェックツールは,色弱の人が紛らわしく感じる色を便宜上1つの色にまとめて表示するが,色弱の人が必ずしもそのような色に見えているわけではない。例えば,ある色調の赤と緑がチェックツールでどちらも茶色に変換されたとき,色弱の人がこれらの色を茶色に感じているというわけではなく,その色調の赤や緑が色弱の人には似て見えることを意味するに過ぎない(図4)。「色弱の人は○○色が××色に見える」という誤解をしないようにしたい。

また,フィルターの特性や色を変換する理論に存在する限界のため,色合いによっては正確な色変換ができないことがある。見分けやすさを厳密に確認するには,これらのチェックツールに頼るだけでなく,色弱等の当事者に実際に見てもらうことも重要である。

5. カラーユニバーサルデザインの3つのポイント

カラーユニバーサルデザインを実施する場合,ただ色を調節すればいいわけではない。大きく分けて3つの配慮すべきポイントがある。

カラーユニバーサルデザインの3つのポイント

  • •   できるだけ多くの人に見分けやすい配色を選ぶ。
  • •   色を見分けにくい人にも情報が伝わるようにする。
  • •   色の名前を用いたコミュニケーションを可能にする。

以下の章で,これらを順番に見てみよう。

6. 見分けやすい配色の選択

見分けられるべき色が同じような色に見えてしまう箇所をチェックツールで見つけたら,それらの色のどちらか,もしくは両方の色調を変更して,できるだけ多くの人に違いが見分けられるような色にする必要がある。

6.1 色数の絞り込み

どんな色覚の人も,色の数は少ないほど区別が容易である。一方デザインする側は,往々にして色数を過剰にしがちである。何を区別できるようにするべきかをよく吟味し,不要な箇所には色をつけないことによって,色分けの数を最小限にすることがまず大切である。

6.2 色相の変更による調整

明度や彩度を保ったまま,色弱や弱視の人が見分けやすいように色相を変える方法である。変えた色によっては見分けやすさが改善しない場合もあるので,注意が必要である。

6.3 濃淡の変更による調整

色弱の人が明度や彩度の違いに比較的敏感なことを利用して,同じ色相の中でこれらを変化させる方法である。明度か彩度の単独では十分な効果が出ないことがあるので,両方(濃淡)を変化させた方が効果的なことが多い。

6.4 同じ色名で表現される範囲で色調を微調整

一般色覚の人は色をまず赤や緑,ピンクなど特定の色名としてとらえ,その中の細かい色調の違いは細かく気にしない傾向がある。これを利用して,同じ色名の範囲内で色あいを微調整することで,見分けやすさをかなり改善させることができる。

例えば赤は,オレンジに寄った色にすると赤だと視認されやすくなる。緑は,青みを強めにすると赤や茶色と誤認されにくくなる(ただし青みを増しすぎるとグレーと誤認されやすくなる)。茶色は,明度の低い焦げ茶にすると赤や緑と誤認されにくくなる。黄緑は,明度と彩度を下げると黄色と誤認されにくくなる。紫は,赤みを増すと青と誤認されにくくなる。ピンクは彩度の高い色か黄色に寄った色にすると,水色と誤認されにくくなる。グレーは青みを増すと,ピンクや緑と誤認されにくくなる。

この方法は全体の印象を大きく変えずに見分けやすさを改善できるので,うまく使うと非常に効果的であるが,調整が微妙なので当事者とよく相談しながら行う必要がある。

6.5 カラーユニバーサルデザイン推奨配色セットの利用

見分けやすい色をゼロからデザインするのはなかなか難しいので,さまざまな色覚タイプの当事者の意見を聞きながら見本色を選んだセットも発表されている。これは比較的小さい面積でも使える鮮やかな色と,広い面積を塗るのに使う高明度の色,有彩色と間違えにくいグレーと白・黒からなる(図5,http://jfly.iam.u-tokyo.ac.jp/colorset/)。ただし,このセットの色の中でも見分けやすい配色と比較的誤認しやすい配色があるので,上記Webサイトに示された注意に従って利用する必要がある。

図5 推奨配色セット

7. 色以外の違いを組み合わせた情報伝達

色覚の違いは多様なので,どんなに配慮してもすべての人に同じように見分けやすいとは限らない。そこで,見分けられる必要がある箇所は,色以外のデザイン要素でも違いをつけて情報が伝わるようにすることが重要になる。

7.1 線は太く,面積は広くする

人間の目は色がついている場所の面積が広いほど,色の差を認識しやすい。色のついた線の幅はなるべく太くし,シンボルなどはなるべく大きくする(図6)。また,文字はなるべく太い書体を用いる。文字の色を変えるだけでなく,書体や太さを変えたり,下線や斜体を併用したり,文字の周りに色つきの背景を付けたりするとわかりやすい(図7A,B)。

図6 色の面積とわかりやすさ
図7 形の違いによるわかりやすさの配慮

7.2 色と色の境界にはフチ取りを入れる

紛らわしい色が並んでいると,その間に境界があることすらわかりにくくなる。黒や白の境界線を入れるだけで,違いが鮮明になる(図7C)。同系色の濃色を入れるのでも良い。

7.3 色の上に色を重ねない

アイボリーやクリームなどごく淡い色の上に濃色を重ねるのは構わないが,赤の上に緑,青の上に赤などの組み合わせは,非常に見にくくなることがある。水色や黄色など明るい色の上には黒い文字やサイン,赤や青など濃い色の上には白い文字やサインを載せるようにする(図7D)。

7.4 色つきサインの周りはなるべく白くする

上とも関連するが,色分けしたサインの周りに他の色が接していると,サインの色の違いがわかりにくくなる。サインの周りに白い余白部分を作ると良い(図7E)。サインは色を変えるだけでなく,形を変えたり文字を組み合わせたりするとなお良い。

7.5 離れた場所の色を対照させない

色と色の距離が離れるほど,差がわかりにくくなる。グラフや路線図では,色のついた図の塗り分けと隅に書かれた凡例を比較対照することが非常に難しい。どの色が何を示すかは,なるべく図の本体の中に書き込む(図8)。

図8 グラフのユニバーサルデザイン

7.6 形を変える

線は実線だけでなく,破線や点線,二重線を組み合わせると,違いがわかりやすくなる。グラフなどのシンボルは,同じ形で色を違えるのでなく,シンボルの形自体をなるべく変える(図8)。電気製品のパイロットランプは,同じランプで色だけが変化するのではなく,点灯と消灯を組み合わせたり,場所が異なる2つのランプを点灯させるなどの工夫が必要になる(JIS規格X8341-5)1)

7.7 塗り分けにパターンをつける

色を塗る際は,異なる形のハッチングや細かい模様のパターンをつけると,違いがわかりやすくなる。黒や白のはっきりしたハッチングでなくても,同系色のわずかな濃淡でも十分である。

7.8 白黒印刷での情報伝達を念頭におく

ホームページやPDFファイルはカラー化が進んでいるが,利用者がそれを実際に印刷する際は,必ずしもカラーで印刷するとは限らない。オフィスなどでは,経費節減のためにカラーの印刷やコピーをなるべく避けることも多い。また,文書をファックスで送るときも色は失われてしまう。これはデザイナーが考える以上に実用上重大な問題である。色だけでなく形の違いでも情報を伝えるカラーユニバーサルデザインは,色弱や弱視の人に対してだけでなく,白黒コピーやファックスする際に情報が失われないというメリットも大きい。

8. 色名の表示

一般の色覚の人にとって「色を見れば色名がわかる」のはほとんど当たり前のことだが,色弱や弱視の人にとっては,「色が違うことがわかっても,それぞれの色名がわからない」場合が非常に多い。従って,デザインを見ながらユーザーが色名を使って会話したり,ユーザーが特定の色を選んだりする必要があるものでは,色名を明記することが重要になる。

日本製の文房具は,業界団体の申し合わせによってペン軸に色名を明記することになり,JIS規格にも盛り込まれた(JIS S6037:2006)2)。またテレビのリモコンでは,カラーボタンに必ず色名を表記することになっている(図9A,B)。公共施設の壁などに設置されたゾーンごとの色分けサインや,病院の診察室などの色分け,エレベーターの行き先回数別の色分けは,色名で案内を行うことがあるのでなるべく色名をサイン自体に表記する(図9C)。家電製品や服,靴では,オレンジの製品を茶色と間違えて買ってしまったりするのを防ぐため,外箱や製品タグに色名を書いておくとよい(図9D)。また電車の路線や種別を色で区別している場合は,路線図の凡例に色名を書いておくと混乱が生じない(図9E)。グラフや地図でも,どこが何色で塗られているかを説明する必要がある場合は,凡例に色名を入れると良い。

図9 色名の表示

9. おわりに

先見性のある一部の企業の取り組みから始まったカラーユニバーサルデザインは,自治体が発行するガイドラインやバリアフリー新法に基づく国土交通省のガイドライン3),4),JIS規格1),2)などによって,デザインに携わる人間が必ず考慮しなくてはならないものへと認識が広がりつつある。具体例を示した各種のガイドも発行されている5),6)。またNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(Color Universal Design Organization: CUDO,http://www.cudo.jp)では,当事者の目でデザインをチェックしてアドバイスを行い,見分けやすいデザインに認証マークを発行している。自分が作っているデザインにわかりにくい点がないかをチェックツールを用いて確認し,必要に応じてこれらガイドやNPOの助けを借りながらユーザーの側からのわかりやすさに配慮することによって,誰にでもわかりやすく,情報が正しく伝わるデザインを作ることができる。

カラーはWeb版でご覧ください。

参考文献
 
© 2012, Japan Science and Technology Agency
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