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ウェブらしさから考える社会のゆくえ
米澤 誠
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2012 年 55 巻 5 号 p. 374-377

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学術コミュニケーションの本質としてのオープンアクセス

電子ジャーナルの高騰に毎年苦しんでいる大学図書館員にとって,かすかな光明を見させてくれる文章にようやく出会いました。気鋭のウェブ研究者とサイエンスコミュニケーターによる『ウェブらしさを考える本』は,メディアおよびコミュニケーションツールとして,ウェブは本質的にどのような特徴を持っているのかを,わかりやすく語った良著です。

『ウェブらしさを考える本:つながり社会のゆくえ』大向一輝,池谷瑠絵 丸善出版,2012年,798円(税込)
http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/webrashisa/

著者らは第3章「ウェブはつくられたもの」の中で,CERN(欧州原子核研究機構)という学術研究機関でのウェブの発祥について振り返ります。そして学術コミュニケーションというモデルでは,専門的な知識を持った研究者が,先行研究を基にして新規の知見を論文にまとめて発表し,そしてその論文はまた他の研究者が引用すると簡潔に解説します。

また,「新しい発見が論文になるということは,逆に言えば,既知の事柄はすべて共有されていたほうがいいことになります。究極的には,共有されていなければそれが新しいということを判断する基準がないからです」と明言します。このように,学問の進歩のためには先行する学術研究はオープンでなくてはならないと確認した後,著者らはさらに次のように主張します。

「研究者は人為的な制限を嫌います。一部の人だけが読めるような文献を引用して,自分の論文を書くわけにはいきません。学術コミュニケーションにおいて,既知の情報がすべて公開されていなければならないのは,『未知との遭遇』を支えてくれるからに他なりません。ウェブというしくみは,まだ人類の知らない知へ向けた足場となるべく,科学や学術の世界をモデルとしたコミュニケーションを実現するためにつくられたものだと思います」

高額な価格を提示し続け,有用な学術情報を囲い込むことに専念している電子ジャーナルのビジネスモデルは,人類の科学や学術の進展を阻害するものに他なりません。私たちは,真にオープンな学術コミュニケーションを取り戻すため,この書に示されたウェブの精神を胸に刻み,あらためてオープンアクセスを目指すための長い戦いを続けなくてはならないと思っています。

知識としての情報活用リテラシー

次に,第4章「情報の発見と発信」の中では,情報源としての重要性を増したウェブを背景として,知識のあり方の変容について言及しています。つまり,従来の知識とは多くの情報を記憶することだと考えられていたため,学校教育でも情報を記憶させることに主眼が置かれていました。ところがウェブと検索エンジンを利用することで,記憶していなくとも好きなときに情報を引き出すことができるようになったというのです。

知識の本質について,著者は次のように指摘します。「知識という概念を構成していた情報の記憶と活用が切り離され,活用方法を理解することこそ知識の本質ではないかと考えられるようになるのは自然のなりゆきだと言えるでしょう」

この情報の活用方法を理解することとは,いわゆる情報リテラシーに他なりません。ウェブらしさを語るこの書籍の中で,情報リテラシーの知見に出会うとは幸運でした。実はこの情報リテラシーの必要性については,かのドラッカーも「継続学習の方法」という言葉を使って,次のように言及しているのです。

「しかしこれからは,基礎教育に加え,方法に係わる知識,いままでは学校で教えようとさえしなかったものが必要になる。特に知識社会においては,継続学習の方法を身につけておかなければならない。内容そのものよりも継続学習の能力や意欲のほうが大切である」1)

この生涯学習を続けるために必要な情報リテラシーは,ウェブの進化にあわせて変化していく必要があります。「情報は行動を引き起こすためにある」と主張し,ツイッターで実社会を動かしてきた津田大介氏の『情報の呼吸法』は,この新たな情報受発信ツールでの「吸い込み方と吐き出し方」に関する見事な指南書となっています。

『情報の呼吸法』津田大介 朝日出版社,2012年,987円(税込)
http://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255006215/

津田氏は,このツイッターで「肝心なのは情報を使って何をしたいかです」と述べ,同じ業界の人,できれば同じ世代の人を見つけて,まったく知らない人でもフォローしてみることを薦めます。すると,「抱えている問題意識が近く,時代に対する焦燥感も共有できるので,そういう人が投げてくる何気ない情報が大きくヒットする」と主張します。ツイッターは,ただ単に知り合いとの会話を楽しむのではなく,自分の行動に影響を与える情報を入手するツールとして使ってこそ有用なのです。

そして従来の情報選択はメディア選びであったが,「ソーシャルメディアの時代になって,それは『人選び』に大きく変わりました。人をどう選ぶのかによって入手できる情報に大きな違いが出る」と指摘します。速報的な情報や付加価値のある情報を発信している人を見つけ,そのアカウントをフォローするのが重要だというのです。

一方津田氏は,書籍の重要性も忘れてはいません。「本の情報はひとつのテーマで圧縮されています。推敲されている分,情報の密度も高い。だから本を読むとネットよりもはるかに自分の考えを発展させることができます」。このようにしてネットや書籍から,自分の行動に影響を与える情報を上手に入手し,そして自分の仕事や学習・生活を変えていくのが,ポスト資本主義社会の生き方なのではないでしょうか。

親密な他者への情報発信リテラシー

さてツイッターは,情報の発信ツールとしても有効です。津田氏は,その情報発信のコツについても具体・詳細に指南してくれます。

フォロワーを増やすには,まず自分のフォローを増やすのが第1で,フォローすれば半分近くの人がフォロワーになってくれるのだと私たちを安心させてくれた上で,次のようにコツを述べます。「そうすると,フォロワーに対する情報発信力が生まれてくるので,そこに対して,『面白そうな情報を提供して投げる』という『貢献』をするんです」

この貢献の度合い(情報発信力)が,読者(フォロワー)の可視化や反応の数字化(お気に入りやリツィートの数)でわかるようになっているのがSNSの大きな特徴です。「そういう数字を見ながら試行錯誤を繰り返していくと『こういう情報が求められているんだな』というリテラシーが次第に体得できるでしょう。それを繰り返していくことで,自分のネット上での情報拡散力・影響力を高めていくことができます」というのです。

そしてさらに,「ただ単なる情報発信だけでは人は満足しないので,その後に自分の日常や普段思っていることなどを書いていくと,自分自身のパーソナリティーについても興味を持ってもらえて,さらにまたフォロワーが増える」とアドバイスしてくれます。

このように自分が興味を持つ情報を提供してくれ,なおかつそのパーソナリティーについても興味が持てるアカウントは,「親密な他者」と位置づけられます。これは,リアル世界の生活における3つの他者である(1)街ですれ違う赤の他人,(2)つきあいのある顔見知りや知人,(3)いつも一緒にいる友人や恋人に次ぐ,ネット世界特有の第4の他者となっています。

価値観や趣味の合うこの親密な他者とは,相手の都合よりも自分の都合を優先でき(フォローが自由),発言に関しては地位が平等で(有名人とも同等),親密になり望めばリアルに会うことも可能になるという,ネット世界ならではのつながりを持っています。

このようなネット社会のつながりを,固定電話から携帯電話,パソコン通信からインターネット,ホームページからブログ・SNSという通信技術の進化をたどりつつ,対応するネット世代の心情の変化を調査・分析した労作が『つながり進化論』です。

『つながり進化論:ネット世代はなぜリア充を求めるのか』小川克彦 中央公論新社(中公新書),2011年,840円(税込)
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2011/03/102100.html

小川氏は,ネットつながりの心情を「他者に気を遣わず,自分は安心できる」「孤独でないことを確かめ,偶然のつながりに喜びを味わう」とまとめています。そしてこれは,家庭,職場・学校から離れてほっと安心できる,従来居酒屋やパブが果たしていたような第3の場のつながりであると指摘します。この第3の場は,自分の日々の暮らしや体験,意見を言いつつ他者と交流する,リアルな場所での仲間たちの語らいに使うべきという提案は,充分うなずけるものがあります。

大学生のツイッターを見ていると,仲間とのたわいもない会話に終始することが多いようです。まったくプライベートな情報を,パブリックな場にツイートしているのを見ていると,本当に危ういものを感じます。先にも述べたように,ツイッターは自分の行動に影響を与える情報を入手するとともに,自分という人間を親密な他者に発信するのに最適なツールなのです。

自分の持つ情報や知見・見解を発信することにより他人や社会の役に立つ,さらに自分自身が社会的な行動を起こすことにより他人や社会に貢献する。ツイッターは,そのような他者とのつながりを改革する可能性を秘めたツールです。その意味でこれからは,個々人の情報の受発信リテラシーが問われる社会になるのではないでしょうか。

執筆者略歴

米澤 誠(よねざわ まこと)

東北大学附属図書館勤務。関心領域は,学習環境,情報リテラシー教育,パブリック・リレーションシップ(PR)など。主な著作に『図書館経営論』(共著,日本図書館協会,2011年),「ラーニング・コモンズの本質」(『名古屋大学附属図書館研究年報』7号)「レポート作成におけるコピペ防止策」(『情報管理』52巻5号)「広報としての図書館展示の意義と効果的な実践方法」(『情報の科学と技術』55巻7号)などがある。公式ブログURL: http://blogs.yahoo.co.jp/bpxdx655

参考文献
  • 1)   ドラッカー,  P. F. ポスト資本主義社会. 上田惇生訳. ダイヤモンド社, 2007, p. 253, ドラッカー名著集8.
 
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