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日本薬学会論文誌の取り組み:オープンアクセス誌の可能性
太田 茂
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2016 年 59 巻 4 号 p. 226-231

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著者抄録

日本薬学会は1880年創立当初より学会論文誌を継続して刊行しており,現在は英文誌として『Chemical and Pharmaceutical Bulletin』と『Biological and Pharmaceutical Bulletin』の2誌と,和文が主である『薬学雑誌』を毎月発行している。これらの学会論文誌はいずれもJ-STAGEによりオープンアクセス誌として公開されている。また,2016年5月に試験的に公開された「J-STAGE評価版」に協力し,英文誌2誌をモデル誌として公開している。J-STAGE評価版は,スマートフォン等のモバイル端末での閲覧が可能となり,特に若い世代における閲覧の増加が期待できると考えている。

1. 日本薬学会の概要

日本薬学会は1880年に創立され現在まで136年の歴史を有しており,2011年に公益社団法人化している。会員数は正会員,学生会員合わせて1万9,000名前後であり,賛助会員としては製薬企業を中心に200社程度の協賛を得ている。会員は全国8ブロックの中からそれぞれの地域支部にも所属することとなっており,専門領域ごとに10の部会が存在し,専門分野別の活動も行っている。学会発足当初から学会論文誌を発行し,また年に1回学会全体で行う年会を開催している。またそれぞれの部会ならびに支部会において独自にシンポジウム,フォーラム,市民講演会等を開催している。海外の学会とも連携しており,ドイツ薬学会,韓国薬学会,米国薬学会とは相互に,年会等の演者や参加者を派遣している。

2. 日本薬学会の研究分野

日本薬学会は生命科学と医療を支えるための薬学研究,薬学教育を発展させる学術団体として活動をしており,カバーする学問領域は化学系薬学,医薬化学,生薬天然物,物理系薬学,構造活性相関,生物系薬学,薬理系薬学,環境・衛生,医療薬科学,レギュラトリーサイエンスと極めて幅広い分野にわたっている。また会員の構成は,薬学系学部を中心とした大学教員や学生,製薬企業等の研究者,病院薬剤師や開局薬剤師,行政機関と極めて幅広いことが特徴である。このように幅広い学問分野の研究者が一緒に議論を展開できるプラットフォームを提供することが日本薬学会の使命であると考えている。

3. 学会論文誌の種類

前述のように幅広い専門分野を統括するために学会論文誌は3種類発行している。和文誌『薬学雑誌』(1)は日本薬学会の発足時から継続しており,本年で136号になっている。発行部数は800部で,毎月発行している。本誌は和文のみであった期間は長かったが,現在は臨床薬学分野からの要望もあり,本領域に限り英文での投稿も受け付けている。また内容としては一般論文,誌上シンポジウムをはじめとする総説等を掲載している。この誌上シンポジウムは年会等のシンポジウムでの内容を総説の形で掲載するものである。

英文誌は化学系薬学を中心としている『Chemical and Pharmaceutical Bulletin』と生物系薬学を中心としている『Biological and Pharmaceutical Bulletin』の2誌(1)を発行している。両誌とも発行部数は850部で,毎月発行している。内容としては一般論文,総説,コミュニケーション,ノートを掲載している。両誌とも目次にはグラフィカルアブストラクトを導入しており,論文の趣旨がわかりやすく表現されている。

なお,以上の3誌以外に会誌として『ファルマシア』を毎月発行している。発行部数は1万8,000部程度で,会員に配送している。本誌は会員の広報誌として薬学関連情報をわかりやすく提供し,会員相互のコミュニケーションの円滑化を図ることを目的としている。年6回程度の特集を組んで会員のニーズにマッチした企画を心がけている。2016年2月からこのファルマシアはJ-STAGEに登載されるようになり会員は個人認証で最新号まで閲覧可能となっている。非会員はバックナンバーのみ閲覧可能である。非会員でも日本薬学会に関心をもっていただくためにはよいシステムとなっていると思われる。

図1 各学会論文誌の表紙

4. 学会論文誌の採択および投稿状況

2015年におけるChemical and Pharmaceutical Bulletinの採択論文数は159報であり,採択率46.62%であった。ここ数年にわたり投稿件数の減少が認められている。一方,Biological and Pharmaceutical Bulletinの2015年における採択論文数は291報であり,採択率46.56%であった。ここ数年間では採択論文数,採択率ともあまり変化は認められなかった。薬学雑誌は2015年における採択論文数は201報であり,採択率87.77%であった。2014年の採択数は154報であったので大幅な上昇が認められている。これは,臨床薬学領域と薬学教育領域における掲載数の上昇が要因であると思われる。また臨床薬学領域の投稿を英文でも可能としたことも要因となっている可能性がある。

次に投稿論文の分野であるが,投稿者の意思で両英文誌から1つを選択できるシステムとなっている(12)。Chemical and Pharmaceutical Bulletinにおいては医薬化学,天然物化学等の投稿が多く,Biological and Pharmaceutical Bulletinにおいては薬理学,分子・細胞生物学の投稿が多いという特徴はあるものの,両英文誌の投稿分野に明確な区別はない。これは薬学の研究領域の幅広さと学際的な論文が他領域と比較して多いことを反映しているのではないかと思われる。

表1 『Chemical and Pharmaceutical Bulletin』分野別受付数
表2 『Biological and Pharmaceutical Bulletin』分野別受付数

5. 学会論文誌の投稿システム

学会論文誌の投稿システムの利便性を上げることは会員に対するサービスのみでなく編集委員側にも利益をもたらす。現在両英文誌とも投稿はオンラインシステム(Editorial Manager)によって行っており,投稿者が分野を明記することで,審査を担当する専門の編集委員に,迅速に振り分けられることが可能となっている。現在のところ,投稿から最初の査読結果が出るまでの期間は平均で1か月程度となっているが,この点は今後さらに短縮を目指して努力する必要があると考えている。また投稿者は従来,本文,図,表を別ファイルでアップロードしていたが,現在は別ファイルとしてもよいし図表を本文に埋め込んで投稿してもよいこととした。これによって投稿者と査読者双方のメリットがあると思われる。また投稿に慣れていない会員のために投稿マニュアルの充実や投稿用フォーマットを設定した。

6. 学会論文誌の査読

前述のとおり日本薬学会の両英文誌は投稿者の意思で希望の英文誌を選択できるシステムになっている。そのため査読者を英文誌ごとにそれぞれ選定しているのではなく学会論文誌全体で専門領域ごとに編集委員を設け,編集委員が学会論文誌全体の査読者を選定している。具体的には,専門領域を9部門に分け,それぞれの専門領域に編集委員を配置しており,委員総数は89名となっている。9部門それぞれの部門長が担当編集委員を選定し,選ばれた編集委員が査読者を通常2名選定する体制で行っている。この体制によってそれぞれの英文誌の質の違いが解消されていると思われる。

7. 英文誌のインパクトファクター

学術誌の評価基準では「インパクトファクター」注1)がよく知られている。これは,文献がどれだけ頻繁に引用されたかを示す数値で,それによって学術誌のすべてが評価されるというわけではないが,一つの指標であることは間違いない。日本薬学会の両英文誌のインパクトファクターの推移は34のとおりである。

Biological and Pharmaceutical Bulletinにおいては近年上昇傾向にあるといえるが,Chemical and Pharmaceutical Bulletinにおいては近年低下傾向であるといえる。数値低下の原因解明とそれに対する対策について現在鋭意検討中であるが,化学系他誌との競合も一因となっていると思われる。いずれにしても投稿者にとって魅力ある学会論文誌になるためには,インパクトファクターの数値を上げることも重要で,査読期間のさらなる短縮や投稿者の立場を考慮した査読など,地道な努力をする必要があると考えている。

表3 『Chemical and Pharmaceutical Bulletin』インパクトファクター推移
表4 『Biological and Pharmaceutical Bulletin』インパクトファクター推移

8. 学会論文誌の電子公開

学会論文誌の発展には,質の高い論文や総説が掲載され,その内容がオープンアクセスにより広く周知されることが重要であり,このことで引用が増加すればさらに好循環が進展していくと考えられる。日本薬学会における学会論文誌はいずれも1999年から日本薬学会のWebサイト上でオープンアクセス誌として公開されており,2002年には全面的にJ-STAGEによりオープンアクセスが実施されている。また,J-STAGEでは次期開発に向けて,海外プラットフォームを参考に,見やすく,使いやすいサイトとなることを目指した「J-STAGE評価版」注2)2)を2016年5月より公開しているが,その開発にあたって,前年度より画面デザインについての意見・要望を日本薬学会内で取りまとめて改善につなげたり,モデル誌として英文誌2誌の公開に協力している。J-STAGE評価版については,編集委員からの意見は極めて好評で,次期J-STAGEの完成が待たれる。なお本システムではスマートフォン等モバイル端末での閲覧も可能となり(3),特に若い世代における閲覧の増加が期待できると考えている。

図2 「J-STAGE評価版」画面
図3 「J-STAGE評価版」スマートフォン画面

9. まとめ

これまで日本薬学会の学会誌について概説を行った。現在,3種の学会誌を刊行しているが,それぞれの特徴を生かし今後も長く続けていくことが会員を中心としたユーザーへのサービスであると考えている。また今後さらに発展するためには,J-STAGE評価版で公開している編集委員からのおすすめ記事の掲載等,情報提供の充実を図ることは重要であると思われる。また査読者が投稿者の立場を理解して丁寧に査読することや査読の迅速化などソフト面での充実も学会論文誌の発展のためには必要であると実感している。

執筆者略歴

  • 太田 茂(おおた しげる) sohta@hiroshima-u.ac.jp

1981年東京大学大学院薬学系博士課程修了,薬学博士,1981~1983年スイス連邦工科大学博士研究員,1983年東京大学薬学部助手,1993年医学部助教授,1997年広島大学医学部教授。2002~2006年日本薬学会論文誌『J. Health Sci.』編集委員,2005~2007年『Chem. Pharm. Bull.』編集委員,2009年『薬学雑誌』編集委員,2010~2012年同雑誌編集長,2013年日本薬学会学術誌編集委員会委員,2015年から日本薬学会会頭。

本文の注
注1)  インパクトファクターについて:http://ip-science.thomsonreuters.jp/ssr/impact_factor/

注2)  J-STAGE評価版:https://jstagebeta.jst.go.jp/

 
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