情報管理
Online ISSN : 1347-1597
Print ISSN : 0021-7298
ISSN-L : 0021-7298
図書紹介
図書紹介 『情報便利屋の日記:専門図書館への誘い』
柊 純子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 59 巻 8 号 p. 573

詳細

  • 『情報便利屋の日記:専門図書館への誘い』
  • 村橋勝子著
  • 樹村房,2016年,四六判,197p.,1,800円(税別)
  • ISBN 9784883672653

5年ほど前,私は本誌の求めに応じて「インフォプロってなんだ?」というリレーエッセーに寄稿した。その中で,私にはライブラリアンとして,いつも仕事に対する姿勢を見習いたいと思ってきた人がいると記した。経団連ライブラリーに長らく在職された村橋勝子さんだ。「情報管理」誌に長期連載された「情報便利屋の日記」(1996~2000年)の著者で,現在は社史の研究家としても広く知られている。本誌に連載された村橋さんの日記は,情報収集に対峙する人々には一度は読んでいただきたい,と常々思っていた。

その村橋さんが,経団連におけるライブラリアン生活の経験知を基に,専門図書館に携わる人々に向けての秘策を伝授した一冊をまとめられた。本書の大半は,前述の連載「情報便利屋の日記」に加筆・修正されたものが占めており,内容的にはインターネットの普及前からの事例も多々含まれてはいる。しかし,十数年を経た事例がいまだ色あせることなく興味深く,いつ読み返しても参考となるのは,依頼されたテーマに対して,何を利用して,どのような検索を行ったか,といった具体的なテクニックではなく,どのような視点でその調査にあたったのか,あたるべきなのか,結果,どのように伝えたのか,というユーザーの意図のくみ取り方,結果を提供するときのポイントなどを示しているからに他ならない。

筆者を含め,特にビジネス系のライブラリーに従事する者には,お門違(かどちが)いと思える手ごわい厄介なテーマなどさまざまな相談が寄せられる。たしかにキーボードをたたけば新鮮かつ,お宝の情報(データ)が出てくる時代にはなったが,数ある中からリクエストに見合う情報を見繕ってさばくのは,調査にあたる人間(ライブラリアン)の腕次第といえる。

だが本書を読み,恵まれた環境にいたから成し得た結果と,早とちりするなかれ,である。村橋さんが「情報便利屋」を開業できたのは,学校での司書の学習成果でも,経団連ライブラリーという恵まれた環境にいたからでもない。「図書館ではなく経団連に就職したと思え」という上司の言葉に示されるとおり,経団連という大きな組織におけるライブラリーのあり方を常に念頭に置き,「知りたいこと,調べてほしいこと,どんなことにも応じます」をモットーに,利用者との日々のコミュニケーションを大切にして行動した成果である。

ところで,専門図書館には公共図書館や大学図書館のような確固たる法律的定義はない。街の図書館のような機能も重視されない。資料の品ぞろえも管理業務も,調べ物も,効率性が追求される。いずれのライブラリーにもおのおのの規模に応じた厄介な課題が渦巻いているものである。いわゆる図書館業務とされる書籍の受け入れ,管理業務についても,その仕事には工夫の余地はないのか,そもそもやるべきことなのか,を常に見直すことが必要である。恵まれた環境なんてそうざらにはない。だからこそ,一人ひとりのライブラリアンがどう行動するかが,おのおののライブラリーの立場や質に影響してくる。人をうらやみ,指をくわえる前に,己には何ができるか考え,課題を少しずつでも解消していこう。本書には,村橋さんのそんな思いも垣間見える。

一言でいえば,まさに,ライブラリアン版「プロフェッショナル 仕事の流儀」の書といえよう。

(NRIワークプレイスサービス株式会社ナレッジサービスチーム(株式会社 野村総合研究所ライブラリー担当) 柊 純子)

 
© 2016 Japan Science and Technology Agency
feedback
Top