情報管理
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「情報」とはなにか 第8回 ■情報×時事問題:時事問題へのアプローチと情報利用者の心得
堀江 正弘
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60 巻 (2017) 10 号 p. 730-734

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著者抄録

インターネットという情報の巨大な伝送装置を得,おびただしい量の情報に囲まれることになった現代。実体をもつものの価値や実在するもの同士の交流のありようにも,これまで世界が経験したことのない変化が訪れている。本連載では哲学,デジタル・デバイド,サイバーフィジカルなどの諸観点からこのテーマをとらえることを試みたい。「情報」の本質を再定義し,情報を送ることや受けることの意味,情報を伝える「言葉」の役割や受け手としてのリテラシーについて再考する。

第8回で取り上げる時事問題は,発生パターンによってメディアから提供される情報が異なることから,タイプ別に情報のあり方を考える。情報利用者の心得として押さえておくべき基本的な情報の側面についても解説する。

はじめに

誰でも,毎日,さまざまな情報に接し,考え,判断し,行動していることを思えば,学者・研究者であるか一般市民であるかを問わず,日々接している「情報」について一度じっくり考えてみることは極めて重要なことであろう。「情報×時事問題」という課題を与えられた本稿では,そのような立場,観点から,時事問題を巡る情報について,どのようなものとして理解し,利用するか,ということを考えてみたい。

時事問題のタイプ

まず,時事問題とは何か,から始めたい。

「時事問題」は,広辞苑では,「その時,その時代の問題とすべき政治,外交,社会上の出来事」と説明されているが,最近では,「近年に起きた政治,経済,国際,社会一般における事象の総称」と説明しているものもある。このことから,時事問題として取り上げられる対象はほとんどあらゆる分野における出来事・事象に及ぶと理解されていると考えられるが,「その時,その時代の問題とすべき--------------出来事」という表現と単なる「近年に起きた-------------事象の総称」という言い方では意味合いが異なり,問題として取り上げるべき具体的な対象も異なりそうである。本稿では,前者の定義により,話を進めたい。

このように「定義」される時事問題は分野,性質などいろいろな観点から分類することができるであろうが,本稿では,その発生のパターンに着目して,(1)一度限りあるいは一過性の出来事・事象,(2)繰り返し,反復的,周期的に起こる出来事・事象,(3)不定期的に起こり,始まってから一定期間あるいは不確定の期間,問題状況が続き,また問題の内容も変化する出来事・事象,(4)その他,これらが複合した出来事・事象などのタイプに分けて考えてみたい。

タイプ(1)の「一度限りあるいは一過性の出来事・事象」には,たとえば,秋篠宮家の眞子さまの婚約のように必ずあると事前に想定されている出来事と,大災害やテロ事件のように事前に予想されなかった事件・事故などがある。また,タイプ(2)の「繰り返し,反復的,周期的に起こる出来事・事象」の例としては,政府の毎年度の予算編成,政策・事業の実施,各種白書や報告書の公表,景気動向等の定期的発表,各種式典,行事の開催などがある。政府,行政の活動にはこのような反復的,周期的なものが多い。衆議院,参議院の選挙もこのタイプに属する。そして,タイプ(3)の「一定期間あるいは不確定の期間にわたり問題状況が続く出来事・事象」の例としては,北方領土問題を巡る交渉,北朝鮮による弾道ミサイルの開発,核の開発などを挙げることができる。福島の原発事故は,事故の発生そのものは事前に予想されなかった一回限りの大災害であり,タイプ(1)といえるが,その災害の影響・問題状況が,現在も,そして,今後の不確定の期間続くというタイプ(3)の性質も有することから,全体ではタイプ(4)に属するということができよう。

時事問題をこのようにタイプ分けする理由は,時事問題のタイプにより,メディアを通じて一般市民に提供される情報の情報源,伝搬情報の作成・伝搬方法などに違いがあるように思われるからである。たとえば,眞子さまの婚約は,一度限りの出来事であるが,近々必ずあると予想された出来事であり,メディア各社は,大きなニュースとなる時事問題として,宮内庁からいつ正式の発表があっても対応できるよう,十分準備してきたことである。他方,事前に予想されなかった大災害,テロ事件などの場合,経験も準備もないため対応は混乱し,真偽の定かでない情報も多く,その流れも錯綜(さくそう)しがちとなるのである。

時事問題を巡る情報のいろいろな側面

次に,情報の種類,情報源,情報の作成者,情報の伝搬者・伝搬の媒体,情報の利用者など,時事問題を巡る情報についていろいろな側面から考えたい。

  • 情報の種類
  •  ここでいう「情報」とは,文字,数字,書かれた情報や音声情報だけでなく,図,表,写真など動静の画像情報も含むものである。テレビのニュース番組や解説者・評論家などをみていてわかるように,話す内容や用語だけでなく,話すスピードや抑揚や発声の強弱や顔の表情や身ぶり手ぶりなど,情報の伝え方も多様であり,情報の受け手に対する影響も異なってくるものである。時事問題については,多くの主体がこのような多種多様な情報を作成し,供給し,利活用しているのである。

  • 一般市民が得る情報の情報源
  •  まず,時事問題に関する情報源は何か,ということについて考えてみよう。
  •  一般市民が時事問題に関する情報に接するのは,通常,テレビ・ラジオ,インタ―ネット,新聞,週刊誌,月刊誌などを通じてであり,さらに,個別に興味・関心がある事項については政府省庁等のWebサイトなどにアクセスするというのが普通である。日本の官庁のWebサイトには,その組織,所管政策,白書・報告書,審議会等の開催状況・議題・議事要旨・配布資料,大臣記者会見資料,報道資料等が載っており,これらが,時事問題,特に前述のタイプ(2)の時事問題に関する情報の情報源になることが多い。

  • 伝搬情報の作られ方
  •  一般市民が接する情報とその情報源にはさまざまなものがあることは上に述べたとおりであるが,実際には,テレビ・ラジオ,インターネット,新聞,週刊誌,月刊誌などの情報は,必ずしもオリジナルなものばかりではなく,日本の政府・地方自治体,外国の政府,国内外のメディアから得た情報,個々の政治家や政府の高官などから取材して得た情報,企業の経営者などから得た情報,学者・研究者,評論家などから得た情報やコメントなどの中から,取捨選択されたものが少なくない。また,時事問題,特にホットなあるいは現在進行中の時事問題については,テレビなどでは,当事者,評論家,解説者,専門家などを登場させて,説明や意見やコメントを流している。誰が登場するかはテレビ局が選ぶので,テレビ局により,異なる意見やコメントが流れることになる。政府首脳同士のテタテという「さしの会談」の内容が首脳に近い評論家などから流されることもある。テレビに限らず,同じ情報源の情報であっても,情報の伝搬者・媒体による取捨選択の基準や考え方や目的・意図・狙いが異なれば,実際に伝搬される情報は異なるものとなるのである。情報の利用者はこのことをよく肝に銘じておく必要がある。

  • 各種メディアの特徴と強み
  •  次に,時事問題を扱う各種メディアの特徴と強みについて考えてみよう。
  •  今や最も多くの人々が利用していると考えられるインターネットに載っている情報には,オリジナルな情報の他,テレビ,新聞,週刊誌などから引用したものがたくさん含まれている。インターネット上の情報には,真偽を確認しようがないものが多いという問題があるが,インターネットには,刻々と情報が追加,更新されるという特徴,強さがある。また,週刊誌は,日々,刻々と変化する問題については,テレビやインターネットに後れを取るが,その主な掲載内容が新聞広告,電車のつり広告などを通じて発売当日から読者以外の一般市民にも知られるところとなるとともに,テレビ,インターネットにもしばしば引用されるという強さがある。新聞は若い世代の購読者が減っているが,じっくりと時間をかけて時事問題をフォローしようとする年代層には依然として重要なメディアである。しかし,メディア全体でみると,時事問題については,現在では,利用者の数の多さ,ビジュアルに訴える力,瞬時あるいはごく短時間に多くの情報を提供することができる能力というような点で,テレビが他のメディアに勝る影響力をもっていると考えられる。

具体的な事例で考える時事問題のタイプと情報のあり方

次に,時事問題のタイプと情報のあり方について,例を使って考えてみたい。「時事問題のタイプ」の章の末尾で,眞子さまの婚約と大災害やテロ事件の例でタイプ(1)の時事問題の2つのパターンを説明したので,ここでは,タイプ(2)と(3)の時事問題の例を取り上げたい。

  • タイプ(2):反復的に起こる出来事・事象
  •  このタイプとしてGDPなど経済動向に関する政府の発表と選挙を取り上げたい。
  •  経済の動向に関する統計,調査情報は,GDPに関するものをはじめ,政府から毎月,四半期,毎年など定期的に発表されるものが多く,経済の現状に対する理解や経済活動に大きな影響を及ぼすものであるが,速報性を重視するマスメディアでは,独自の分析をあまり加えることなく,前回との違いの説明などを含め政府が発表するものをほぼそのまま伝える場合が多い。経済状況に関する情報のうち特に関心の高いGDPについては,四半期別GDP速報(QE)がまず1次速報として発表され,その約1か月後に2次速報が発表され,翌年に確報が発表される。そのたびに数字が変わる。たとえば,2017年8月14日に発表された4~6月期の1次速報注1)では年率換算で4%であったGDP成長率が,9月8日に発表された2次速報注2)では2.5%に大きく下方修正された。+が-になることもある。しかし,通常,2次速報は,+が-(あるいは-が+)になるなど,1次速報から大きな変化でもない限りマスメディアでの扱いは小さい。このようなことから,QEについては,わずか1か月の間に速報を2度も作成・発表する必要が本当にあるのかどうか,1か月後には修正されるような1次速報はやめたらどうかという意見など,いろいろな意見がある。
  •  選挙は,マスメディアも国民も多くの経験を積み重ねている出来事であり,情報の作成・伝搬の主役であるマスメディアには,候補者・候補者数,各党の政策・争点,選挙情勢分析,各党の獲得議席予想と選挙結果など,一般国民に伝える情報の種類・内容,作成・提供の時期と方法などについて確立されたノウハウがあり,基本的に,これに従って情報が作成され,伝搬される。2017年10月の衆議院総選挙では,公示までは,突然の解散,野党第一党の民進党の分裂・衆議院における崩壊,いわゆる小池新党の誕生など,大きな出来事があり,マスメディアも劇場化して,伝搬される情報や評論家などの意見も日々あるいは時々刻々と変わる状態が続いたが,その期間は短く,公示後は,選挙も報道も従来のパターンと大きくは異ならないものになったと思われる。

  • タイプ(3):一定期間あるいは不確定の期間にわたり問題状況が続く出来事・事象
  •  問題状況が続き,また問題の内容も変化することから,関係者あるいはメディアは,どのようなタイミングで,どのようなことを取り上げて,どのような情報を流すか(あるいは流さないか),判断することになる。このタイプの時事問題の例として,北朝鮮による弾道ミサイルの開発,核開発の問題を取り上げたい。この問題に対処する責任は政府にあり,米国の対応を含め政府が重要な情報をもっているが,政府から国民に提供される情報はJアラートのこと以外は極めて限定的である。国家安全保障会議では北朝鮮問題について頻繁に会議が開催されており,開催日と「北朝鮮による核実験の実施」「北朝鮮による弾道ミサイル発射事案について」など各会議の議題は国家安全保障局のWebサイトに掲載されているが,その具体的内容については全く公表されない。マスメディアでは評論家や元自衛隊幹部などが出てさまざまな分析や発言をしており,一般国民はこれを見ているが,その情報源や根拠,真偽は必ずしも明らかでない。

時事問題に関する情報の利用者の心得

情報があふれる時代といっても,一般市民にとっては,各種のメディアを利用しなければ,必要な情報が得られないのが実際である。しかし,そのような情報を利用するに当たっては,心得ておかなければいけないことがある。いくつか書いておきたい。

第一に,さまざまなメディアから流れてくる時事問題に関する情報の中には真偽が定かでないものが少なくないということである。関心をもち,重要と考える問題について「どこかおかしい」情報と思ったら,同じ問題について扱っている他のメディアなどの情報と比較したり,その後の展開をフォローすることが重要である。報じられている情報の真偽を吟味することにより,次第に,各メディアの傾向や関心や信頼性などについても判断することができるようになる。また,選挙などの政治的時事問題の場合によくあるように,解説や意見がしばしば変わる解説者や評論家がいる。限られた経験と勘,近い関係にある特定の情報源から得た情報,断片的な情報を基に話していると思われる論者がいる。注意深くフォローしていると,発言などから判断して,それぞれの論者の考え方や立ち位置などがわかるようになる。このようなことに留意しながら,接する情報を受け止める必要がある。

第二に,前述のタイプ(2)の時事問題に関する情報についての重要なもう一つの心得であるが,政府の発表だからといってうのみにしないということである。このタイプの時事問題については政府の発表などが情報源であるものが多く,メディアを通じてその概要が報道されることが多いが,定期的に発表されるものについては,報道が前例をなぞったマンネリ化したものになったり,独自の十分な分析がされないまま流されるものが少なからずある。メディアを通じて流されているからといって,厳しいチェックを経ているとは限らないのである。また,政府では国民や企業などの反応や経済活動などに対する影響なども考えながら,発表のタイミングや内容を検討することもある。このようなことに留意しながら,気になることについては,自ら政府のWebサイトで詳しい内容をチェックしたり,専門家の詳しい分析や評価にもアクセスしてみることである。

第三に,時事問題の中には,重要と思われるにもかかわらず,メディアを通じて流れてくる情報があまりない場合があるということである。タイプ(3)の時事問題の場合,当初は各メディアが一斉に取り上げたものが,次第に扱いが異なるようになってくる。丹念にフォローし続けるメディアもあれば,全く取り上げなくなるメディアもある。大新聞は扱わず,週刊誌が取り上げるというような場合もある。取り上げられなくなったからといって,問題が収束したり,解決したとは限らない。そこには各メディアの判断が働いているのである。社会への影響や,場合によっては,政府の意向を忖度(そんたく)しているかもしれないのである。このような違いは,1つのテレビや新聞を見ているだけではわからない。いろいろと比較し考えてみることである。

おわりに

以上,時事問題と情報についていろいろな角度から考えてみた。容易なことではないが,時事問題に関する情報の受け手,利用者であるわれわれは,賢くならなければいけない。いろいろなメディア,各テレビ局,各新聞等の情報を比較しながら,扱われている時事問題がどういうタイプ,性質のものであるか考え,流れてくる情報に何が含まれ,何が含まれていないか,どのような目的・意図・狙いをもって作成,発信されている情報であるかなど,いろいろ吟味し,よくよく考えなければいけない。このような想像力,推理力,そして洞察力は,経験の積み重ねと継続的な情報の収集・比較・分析の努力の積み重ねにより磨かれるものである。「点」だけであったものが,「点と線」になり,やがて「面」となって謎が解けるようになるのである。

執筆者略歴

  • 堀江 正弘(ほりえ まさひろ)

1947年生まれ。1970年東京大学法学部卒業。1971年行政管理庁入庁後,米国シラキュース大学マックスウェルスクール,イェール大学管理科学部大学院に留学,MPA(行政学修士)取得。行政管理庁,大蔵省,総務庁,総務省,内閣官房等勤務。内閣官房行政改革推進事務局長,総務省情報通信政策局長,総務審議官,総務省顧問を歴任。2006年より政策研究大学院大学教授。同副学長を経て,現在,政策研究大学院大学特別教授,修士課程Young Leaders Programディレクター,グローバルリーダー育成センター所長。

本文の注
注1)  内閣府. 2017(平成29)年4~6月期四半期別GDP速報(1次速報値):http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2017/qe172/pdf/gaiyou1721.pdf

注2)  内閣府. 2017(平成29)年4~6月期四半期別GDP速報(2次速報値):http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2017/qe172_2/pdf/gaiyou1722.pdf

 
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