2017 年 60 巻 3 号 p. 205-207
2017年3月,ノルウェー・オスロにてCHIIR 2017(the 2017 Conference on Conference Human Information Interaction and Retrieval, http://sigir.org/chiir2017/)が開催された。これは,ACM SIGIR(Association for Computing Machinery's Special Interest Group on Information Retrieval)が主催している国際会議である。ACM SIGIR本体の年次大会は,2017年,東京で8月7日から8月11日に開催されるSIGIR 2017(http://sigir.org/sigir2017/)で40回記念となるほど長い歴史があるが,CHIIR国際会議は今回が2回目という大変若い会議である。この会議は,もともと,IIiX(Information Interaction in Context conference)とHCIR(Human Computer Information Retrieval symposium)という国際会議が合併して開催されるようになった会議である。筆者はCHIIRの第1回,第2回と両方の会議や,この会議の前身のIIiXにも何回か参加し,発表したこともあるなど,筆者にとってこの会議はまさに専門領域の国際会議である。
この会議は,研究者が集まって,口頭発表やポスター発表を行うアカデミックな国際会議である。本会議で口頭発表やポスター発表を行うには,会議論文集論文を投稿し,複数人の査読を受け,採択されなければならない。この分野では,国際会議における口頭発表の査読付き会議論文集論文は,原著論文にかなり近い扱いで,論文のクオリティーはそれなりに高いものと受け止められている。
この会議は,この分野の会議でよくあるように,初日がチュートリアルとドクトラルコンソーシアム,2日目から4日目の3日間で口頭発表セッション,ポスター発表セッションがあり,最終日がワークショップである。本会議中は,レセプションやバンケットなどのソーシャルイベントがあるのも他の会議と同様であるが,他とは異なる2つの大きな特徴がある。1つは,一般的にチュートリアルは別料金(しかも,少し割高)がかかる会議が多い中,この会議では,チュートリアルが会議の参加費の中に組み込まれていて,基本的に,会議参加者全員がチュートリアルを聴くというスタイルになっていることである。もう1つは,口頭発表セッションがすべてシングルセッションとなっており,会議参加者の全員がおなじ口頭発表を聞いて議論できる,会議全体に一体感のあるスタイルになっている。会議参加者数も128人とそれほど大きな規模ではなく,また,専門の大変近い人ばかりが集まっている会議で,濃密な議論ができるところが,気に入っている。
この会議が扱っている分野は,会議の名前が示すように,情報検索システムのうち,ユーザー寄りの研究を主体にしたものであり,情報探索行動など,人がどのように情報を収集したり探したりするかといった研究や,検索アルゴリズムや検索インターフェースがどのように人の検索行動を支援するかなどといった研究がある。たとえば,本会議で最優秀論文賞を受賞した論文「User behaviour and task characteristics: A field study of daily information behaviour」1)は,人間の情報行動がテーマであった。内容は,Chromeブラウザの拡張機能を使って,被験者23名の5日間の行動のログを取得したうえで,その活動概要をユーザー自身にタグ付けしてもらった結果を分析したものであった。他にも,図書館の書架を定点観測することにより蔵書利用の様子を分析した研究2)や,モバイルWeb検索に必要なスニペットのサイズはどれくらいが適切かといった研究3)が報告された。どの内容も『情報管理』の読者であれば興味の引かれる内容なのではないかと思う。会議論文集はACMのデジタルライブラリーに収録されており,会議に参加していなくても参照は可能なので,興味のある方はぜひ活用してほしい。
会議参加者向けのウエルカムレセプションは,歴史的な建物(Oslo City Hall)で開催され,館内ツアーなども催され,さまざまな壁画や装飾などの説明を受け楽しむことができた。また,バンケットは,オスロでも夜景がきれいなことで有名なエーケベルグの丘にあるレストランで開催され,絶景を楽しむことができた(図1)。
ちなみに,筆者は,最終日のワークショップにポジションペーパーを投稿して,ポスター発表などを行った(図2)。筆者が参加したワークショップは,午前中のみと非常に短時間だったが,基調講演あり,ポスターあり,グループディスカッションありといった非常に濃密なものであった。グループディスカッションは,来年に向けてそれぞれのテーマに関係する具体的なアクションを想定して,何ができるかを議論するという内容であった。筆者が選んだテーマは,Task and contextで,グループ内では活発な議論が行われた。筆者は,タスクやコンテキストに特化した論文やユーザー実験のためのインストラクションなど,さまざまな研究用資料やデータ類を共有することが必要であるとの意見などを述べた。最終的には本テーマに関係するワークショップの開催を,2018年のCHIIRに提案することに対する合意が得られた。
番外編:ワークショップが午前中だけであったので,午後は,オスロの市立図書館に寄ることができた。建物は古いが内装はとてもすてきな図書館であった(図3)。
この集会報告を機に,CHIIRに参加してみようと思ってくださる方がいれば幸いである。
(国立教育政策研究所研究企画開発部 教育研究情報推進室 江草由佳)