「データジャーナル」は従来の「出版」の枠組みを活用しながら,データの保存や再利用を促すために有効な手法と考えられているが,国際的にも概念形成の途上である。本稿では,国内におけるデータジャーナル構築,運用に向けた具体的な検討材料を提供するため,国内での実践例として2017年1月に創刊されたデータジャーナル『Polar Data Journal』を紹介する。具体的には,背景としての国立極地研究所におけるデータ公開の歴史,構想から創刊に至るまでの合意形成プロセス,「データジャーナル」を通じてデータを適切に取り扱うために必要な要件やワークフロー,およびそれらと連携する基盤構築について示す。
2014年3月より,NTTデータはバチカン図書館の保有するマニュスクリプト(手書き文献)のデジタルアーカイブ事業を開始した。NTTデータはその中で,長年にわたって蓄積してきたデジタルアーカイブや検索に関する技術・ノウハウを活用することで,バチカン図書館のデジタル化された資料の唯一のポータルとなるデジタルライブラリー(DigiVatLib)を構築した。構築するにあたり,新たに長期保存に関する国際標準であるOAIS,画像データの長期保存に適したフォーマットであるFITS,画像を相互に閲覧する規格であるIIIF等の機能を組み込むことで,長期保存のみならず,利活用にも優れたプラットフォームを提供した。本稿ではその詳細について寄稿する。
ブロックチェーンはビットコインの中核技術として登場した。ビットコインは2008年にサトシ・ナカモトと名乗る人物がインターネット上に掲載した文書を基に考案された電子通貨である。その背景としては,日進月歩で進化するIT技術に取り残された中央集権型システムの非効率性への不満や,プライバシー情報の取り扱いに関する不信感などがあり,中央集権型システムから個人が中心となる分散型システムへの移行が期待された。分散型システムを機能させるネットワーク技術にブロックチェーンを適用すれば,新たな社会が誕生する可能性がある。一方で,ブロックチェーンに関するさまざまな情報がそれぞれの立場で語られている状況であり,必ずしもビジネス実務や金融業務を正確に把握しないまま,過度にブロックチェーンを礼賛している風潮もあるので冷静な議論が必要である。また,技術的な観点だけではなく,社会科学的なアプローチによる議論の必要性にも言及した。
日本遺伝学会の学会誌Genes & Genetic Systems誌は100年近くの歴史をもち,遺伝学関連の学術論文を出版してきた。全文英文化やJ-STAGEを利用したオープンアクセス化を早くから実現していたが,2013年度より日本学術振興会科研費「国際情報発信強化」の補助を受けて,アジアにおける遺伝学分野のトップジャーナルとなることを目指し,いくつかの新たな試みを始めた。具体的には,国際情報発信強化に向けてアジア各国・地域の研究者の参加による編集体制の国際化,採択論文の英文校閲,掲載費用支払い方法の簡素化,論文の早期公開等を行ってきた。本稿ではこれらの試みについて解説した後,これまでに得られた成果と今後の課題について述べる。
ビッグデータ時代を迎え,今後,国全体としてのデータ活用力を向上させていくには,データサイエンティストに代表される高度データ利活用人材の育成だけでなく,地域社会を構成する個々の企業,自治体等におけるデータ分析力の底上げも併せて重要な課題となる。そのためには,従来のように企画統計部門等,専門の組織に属する職員に対してのみではなく,これからはあらゆる部門の職員に対しても一定かつ,基本的なデータ分析能力の習得が求められてくる。その「あらゆる部門の職員を対象とした基礎的データ分析能力習得」に関する九州テレコム振興センター(KIAI)としての研修事業の構築経緯,ならびにこれまでの取り組みとその結果等について紹介する。
インターネットという情報の巨大な伝送装置を得,おびただしい量の情報に囲まれることになった現代。実体をもつものの価値や実在するもの同士の交流のありようにも,これまで世界が経験したことのない変化が訪れている。本連載では哲学,デジタル・デバイド,情報倫理史などの諸観点からこのテーマをとらえることを試みたい。「情報」の本質を再定義し,情報を送ることや受けることの意味,情報を伝える「言葉」の役割や受け手としてのリテラシーについて再考する。
第1回は,情報によって構成される新たな社会的「現実(リアリティ)」,そしてその階層化について,大黒岳彦氏が考える。