抄録
歯肉におけるメラニンの分布状況や, melanocyteより上皮細胞への色素の移動方法などを検索する目的で, 着色歯肉10例 (黒人, 日本人) を電顕的に観察した。胚芽層に活動的なメラニン生成を営むmelanocyteが見られ, 本細胞と上皮細胞や他の上皮内樹枝状澄明細胞との細胞学的鑑別点につき詳細に検討した。なお, melanocyteは隣接細胞とのdesmosome結合を欠くが, 基底板に接する細胞膜には接着機構を思わせるdense plateが点在していた。また, 幅の広い五brous laminaが本細胞につねに特徴的に認められた。臨床的着色に相当して, 胚芽層の上皮細胞内に成熟メラニン顆粒 (melanosome) の取り込みが見られた。これらは着色の軽度な歯肉では主に単独顆粒として分布し, 一方, 高度の着色部では著明なmela nosome complexの形で認められた。これらの限界膜の形状や内部崩壊像などから, 上皮細胞によるmelanosomeの貧食と消化の過程が推定された。そのほか, melanosomeを貧食したMerkel細胞やmelanophageについても検討した。