歯科基礎医学会雑誌
Print ISSN : 0385-0137
歯の喪失に伴う下顎骨の構造変化
宮下 幸久久野 吉雄須賀 昭一
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1983 年 25 巻 4 号 p. 990-1023

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抄録

雑種犬の下顎一側の小臼歯と大臼歯全部を同時に抜去し, 抜歯窩内, 周囲の歯槽骨, 並びに下顎骨の外側を占める緻密骨にどのような変化が現われるかを観察した。反対側は対照とした。
実験期間(57日から181日)を2つの時期に分け, 前半にはテトラサイクリンを, 後半にはカルセインを, それぞれ連続注射した。左・右の下顎骨の第3, 第4小臼歯と第1, 第2大臼歯の近心根の部分で頬・舌断研磨片を作製し, microradiographyと螢光顕微鏡法で比較観察した。
抜歯窩の治癒に伴って下顎骨では, 緻密骨の外形と内部構造の変化を起すことがわかった。
歯槽頂の高さは吸収により低くなり, 外側に向かった斜面を作る。この変化は舌側よりも頬側ではるかに著明で若い個体ほど著しい。
緻密骨外側では, P4あたりを境目として, それより近心と遠心とで傾向の異なる変化が現われる。すなわち, M1の舌側では骨形成の活発化が, 頬側では骨吸収の活発化が見られ, P3の頬側では骨形成の活発化が, 舌側では骨形成の抑制が見られた。骨形成の活発化は抜歯後まもなくから約2カ月の間に起り, 抑制は抜歯後2~3カ月以降に始まる。これら2つの変化の出現は個体の年齢とは関係しない。それに対して, 吸収は90日目頃から5カ月目頃までの間に進行し, 若い個体ほどの著明である。
緻密骨内側では2種類の変化が見られた。第1は下歯槽管上縁のレベルの上方への移動で, 第2は緻密骨内側全体にわたる骨形成の充進である。第1の変化は特にM1で著明であり, 抜歯後2~3カ月の間で進行する。第2の変化はP3とM1の部分で最もよく見られ, 抜歯直後から3カ月の間に活発に進行する。これらの変化の出現は個体の年齢と関係しない。
抜歯後60日目頃から約1カ月の間にP3~M2の緻密骨内部(特に上方1/2)でreplacement osteonの形の内部改造が活発化する。この変化は年とった個体ほど著明に見られる。
緻密骨の外側と内側, それに内部に現われた変動は, P4あたりを支点として顎骨に生じた歪と関連すると思われる。

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