2022 年 15 巻 2 号 p. 71-83
近年,労働者のメンタルヘルス問題の背景にある要因として,職場におけるハラスメントが国内外において注目されている.本稿では,兵庫県下の中小企業を対象に,2時点の事業主-従業者マッチングデータを用いて,職場のハラスメントが労働者のメンタルヘルスに及ぼす影響を検証する.分析に当たっては,職場のハラスメントがメンタルヘルスに及ぼす効果について,これまでメンタルヘルスとの関係が明らかにされてきた様々なストレス要因の効果と比較するとともに,勤め先企業からの離職の意向,引いては実際の離職行動に与える影響についても検証する.その結果,職場のハラスメントは労働者のメンタルヘルスを悪化させる可能性が示唆された.またハラスメントによる影響は,サービス残業がメンタルヘルスを悪化させる効果に換算した場合には月あたり約70時間に相当するため,無視できない大きさである可能性がある.さらに,職場のハラスメントは,労働者の離職意向を高めることが示唆された.以上の結果は,職場のハラスメントは労働者のメンタルヘルスに多大な影響を与えるのみならず,企業組織への影響も懸念されることを示唆している.