労働安全衛生研究
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最新号
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巻頭言
原著論文
  • 遠藤 雄大
    原稿種別: 原著論文
    2025 年18 巻2 号 p. 65-71
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    [早期公開] 公開日: 2025/09/11
    ジャーナル フリー

    液体がノズル等から噴出する際に生じる静電気帯電(噴出帯電)について,これまでの研究から,その潜在的な危険性は液体の種類やノズル材料に強く依存すると推測される.筆者はこれまでに,任意の液体と材料の組み合わせについて噴出帯電の危険性を簡便に評価する方法を提案し,これによりノズル使用時の噴出帯電現象を概ね再現でき,危険性評価にも有用であることを確認した.一方で,上記研究における各種実験条件は暫定的なものであり現時点では最適とはいえない.とりわけ,測定時の湿度環境は,帯電量を大きく左右する可能性があり,場合によっては噴出帯電の危険性を誤評価する要因となり得ることから,その関係について優先して調査する必要がある.そこで本研究では,2通りの相対湿度(40%RH,60%RH)のもとで,8種類の液体(ケロシン,ミネラルスピリット,酢酸ブチル,酢酸エチル,酢酸メチル,アセトン,エタノール,水道水)と4種類の材料(SUS304,PTFE,MCナイロン,アルミナ)との各組み合わせについて,帯電量測定を行い,測定結果に対する湿度の影響を調査した.その結果,ほとんどの組み合わせでは,高湿化により帯電量が顕著に小さくなる傾向が見られた.ただし一部の組み合わせにおいては,反対に高湿度の場合に帯電量がより大きくなった.いずれにしても,測定結果が湿度環境に強く依存するため,提案方法による危険性評価時には湿度の取り扱いに十分注意する必要がある.

総説
  • 小林 健一, 大谷 勝己, 富岡 征大
    原稿種別: 総説
    2025 年18 巻2 号 p. 73-79
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    [早期公開] 公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

    労働衛生学において産業化学物質ばく露による毒性影響の把握は重要である.災害調査などによる人体への毒性影響の把握に加えて,動物実験により取得したデータは,無毒性量の設定のみならず毒性機序の解明・理解に不可欠なものである.我々の身の回りには産業化学物質,医薬品,農薬,食品添加物,工業薬品等,様々な化学物質が存在するため,既存化学物質の再評価,新規化学物質の評価を含む多数の化学物質を対象とした有害性評価が必要となる.そこで,コスト,時間,労力,動物愛護への配慮,ヒトへの外挿性等を考慮した,高い再構築性と再現性,高感度,ハイスループットなどを備えた精度の高い動物モデルの開発が求められる.本稿では筆者らが主として毒性実験に使用しているげっ歯類(マウス及びラット)および線形動物(線虫)について,労働衛生研究における動物モデルとしての有効な活用法ならびに今後の展望について述べる.

調査報告
  • 森岡 郁晴, 竹下 達也, 宮下 和久, 藤吉 朗, 田中 智博, 生田 善太郎, 平林 愛子
    原稿種別: 調査報告
    2025 年18 巻2 号 p. 81-92
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    [早期公開] 公開日: 2025/08/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,和歌山県内の事業場における,労働安全衛生法令改正に伴う化学物質管理に係る取り組み状況を明らかにすることを目的とした.和歌山産業保健総合支援センターの事業場リストのうち781事業場を対象に,無記名の質問票を郵送により配布した.質問票は,事業場の概要,ラベル表示・Safety Data Sheet(SDS)交付・リスクアセスメント実施の対象物質の取り扱い,リスクアセスメント対象物健康診断の実施状況などとした.化学物質を取り扱っている155事業場を分析対象とした(有効回答率19.8%).小規模(労働者数が50人未満の83事業場)で,労働安全衛生法令等の改正を知っている事業場は36.1%であった.ラベル表示・SDSに基づいた衛生教育や内容物の明示,化学物質のリスクアセスメントを行っている事業場は小規模で有意に少なかった.また,小規模で定期的にリスクアセスメント対象物健康診断を実施している事業場は7割に満たず,事後措置を行っている事業場も約半数であった.さらに,労働者の雇い入れ時に安全衛生教育を行っている事業場,化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選定を予定している事業場も小規模で有意に少なかった.小規模事業場において,化学物質に関する情報伝達システムの構築や,リスクアセスメント対象物健康診断の実施促進,安全衛生教育体制の整備などの支援が必要である.

  • -休業4日以上と休業4日未満の災害を比較-
    矢吹 陽子, 城内 博
    原稿種別: 調査報告
    2025 年18 巻2 号 p. 93-101
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    [早期公開] 公開日: 2025/09/04
    ジャーナル フリー

    職場における休業4日以上の死傷災害のうち,危険物,有害物等を起因物とする労働災害は年間800件程度発生している.このうち,危険物等に起因する死傷災害について調査したところ,令和2(2020)年から令和4(2022)年においては年間400件弱発生しており,その8割以上が火傷又は熱傷による災害であった1).本稿では,主として危険物,有害物等に起因する労働災害に関して,休業4日未満の災害の実態を明らかにするため,3か所の労働基準監督署において調査を行い,休業4日以上の災害との比較・分析を行った結果について示した.また,調査結果をもとに全国値を推計し,療養補償給付の新規受給者数と比較したところ,不休災害が相当程度発生している可能性や休業4日未満に係る労働者死傷病報告の提出が適正になされていない可能性が示唆された.

  • -再現可能な加工とアプリケーションの開発-
    西田 典充
    原稿種別: 調査報告
    2025 年18 巻2 号 p. 103-109
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    [早期公開] 公開日: 2025/08/13
    ジャーナル フリー

    厚生労働省は労働災害に関するデータを公開している.その中で,死亡災害に関する公開データはExcelファイル形式で年度毎に公開されているが,誤入力されたデータの置き換え,年度毎に違う値が含まれる列の加工などへの対応が,複数年度にまたがった集計などを行う場合に必要となり,その活用には課題が残る.本調査報告ではこれらのファイルを集計しても整合性が保たれた形となるように年度毎のデータを加工し,単一のファイルへと結合を行い,そのファイルを簡便に検索,集計,可視化することができるアプリケーションを作成して公開した(https://factory-health.shinyapps.io/sibou-saigai/).また,新しい年度のファイルの追加や,データの妥当性の検証が行えるように,データの加工工程をプログラミング言語で記述したスクリプトファイルを公開した(https://github.com/ironwest/sibou-saigai).本調査研究のスクリプトファイルやアプリケーションを利用することで,再現性を担保してデータの作成や加工が可能となること,特別なスキルを必要としないで死亡災害データの検索や集計が可能となることから,死亡災害に関する研究や調査,実務での情報収集に必要な労力が軽減されることが期待される.

研究紹介
  • 崔 光石, 長田 裕生
    原稿種別: 研究紹介
    2025 年18 巻2 号 p. 111-113
    発行日: 2025/09/30
    公開日: 2025/09/30
    [早期公開] 公開日: 2025/08/22
    ジャーナル フリー

    本報は,静電気に起因する事故を未然に防止する手段の一つとして,静電気放電の電荷量を定量的に評価するための測定装置を開発し,その測定原理および可燃性物質に対する着火危険性の評価方法について紹介するものである.本装置では,CR並列回路を採用することにより,測定時に生じる静電誘導の影響を低減している.さらに,コンデンサ両端の電圧を測定する回路の後段にはピークホールド回路を設けており,複数回連続して放電が発生した場合でも,より大きな放電が検出されると表示値が自動的に更新される仕組みとなっている.本装置を用いて,産業現場で主に発生する火花放電,ブラシ放電,沿面放電の各放電電荷量を測定し,その活用可能性についても併せて紹介した.

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