2016 年 9 巻 2 号 p. 79-89
機械災害防止に関わる行政施策でリスクアセスメントの普及が強く推進されているが,リスクを評価・判断するうえで公に受け入れられ統一された基準はまだ確立されていない.このため,リスクアセスメントの結果導かれる対策は,リスクアセスメントを実施する者の主観に依存し,その妥当性については必ずしも担保されない.本研究では,この問題を考察し,一事業場内の自主的労働安全衛生活動の範囲で回避するには限界があり,よって,最新の機械安全国際規格や他事業場等での成功事例に精通した第三者が機械のリスク低減状態を個別具体的に確認する仕組みが必要であることを示し,これを「妥当性確認」と定義した.そして,リスクアセスメントに基づく機械安全を日本に先行して推進してきた欧州4ヵ国を対象に調査を行い,リスクアセスメント結果の妥当性をいかに担保してきたかについて各国の実態を日本国内での場合と比較した.その結果,現在の国内の社会制度の枠組みで妥当性確認に相当する活動を実施するとすれば,労働基準監督機関が行う監督指導業務での実施が考えられることを示し,そのうえで,①機械安全に関わる法規制と機械安全国際規格との関係を明確にし,両者が強く結びつく方向へ整備すること,②監督指導業務を通じて知り得た災害の未然防止に成功した好事例について情報を収集し,広く一般へ公表・展開を図ることの2点を特に検討すべき課題として抽出し,提言としてまとめた.