2016 年 9 巻 2 号 p. 61-72
労働安全分野において望ましい安全を達成するために,欧州型機械安全制度の導入を望む声がある.労働安全は,リスク全体を俯瞰したうえで,リスクの回避,低減,移転,保有などのリスク対応にて,リスクを管理することを基本とするシステムであり,機械安全は,リスクを個別に低減することを基本とするシステムである.そこで,リスクマネジメントの観点より,機械安全制度を労働安全におけるリスク低減策と位置づけることで,制度を運用する方法を提案する.このための理論的枠組みに,リスクマネジメント原則ISO 31000:2009を使用する.このマネジメント内において,現場の労働災害防止対策の妥当性を確認する活動が必要となることを示す.なお,このマネジメントの目的は,自主的な安全衛生管理活動を支援する社会環境を整えることであり,事業場で実施されるリスク対応のための手段を,社会制度等で整備することである.ここでは,制度や施策の不確かさをリスクとして扱うことが求められるが,この考え方は従来の労働安全でのリスクの捉え方とは異なる.そこで,事業場を取り巻く社会環境の不確かさを扱う分野をマクロ労働安全とし,従来の,事業場単位で実施される自主的な安全衛生管理活動での不確かさを扱う分野をミクロ労働安全として,区別することを提案する.