論文ID: JOSH-2024-0001-CHO
本研究では,健康経営優良法人に認定された中小企業における経営者の,労働者の安全と健康に関する状況の把握および外部への開示意向について検討した.その結果,経営者は労働災害に関する情報を数値化して把握している一方で,離職意思や知覚された組織的支援(Perceived organizational support: POS)などの情報は把握していないことが明らかになった.また,従業員のストレスや,ワーク・エンゲイジメントの把握意向は高いものの,従業員の運動状況の把握意向は低い傾向にあった.このことから,経営者たちは従業員の精神的健康や,勤務への意欲を重要視しているものの,生活習慣の改善につながる情報の把握には重きを置いていない可能性が考えられた.さらに,経営者が情報を把握していない,または把握意向が低い要因として,離職意思やPOSなどの情報収集が法令で義務付けられていないこと,労働安全衛生に関する専門知識の不足,個人情報保護に対する懸念が考えられた.情報の開示意向では,労働災害件数と度数率・強度率に関する情報の開示意向が特に高く,積極的に社外にこれらの情報を公開すべきであるという認識が広がっていることが示された.しかし,情報開示のためには適切な指標の把握が前提となる.したがって,産業保健スタッフや,外部専門機関が経営者の意向に沿った指標の把握と開示を支援できれば,評価や改善の取り組みが進む可能性がある.