2025 年 44 巻 3 号 p. 319-325
本論文は,自閉スペクトラム症とうつ病が併発した40代男性の事例の経過を報告した.治療初期には,長期的で抽象度の高い目標を基に課題を設定したが,十分な行動変容には至らなかった.そこで,評価の修正を行い,クライアント(以下,Cl.)の興味に基づいて短期的で具体的な課題を再設定した結果,行動変容が生じ,不安も軽減した.生活の自立度が上がり,家族関係や対人行動にも改善が認められたことから,治療後期には面接とデイケアを利用し,福祉的就労に至った.以上の経過から,強い不安とともに自閉スペクトラム症がある事例への対応においては,Cl.の興味に基づいて短期的で具体的な課題を設定することが重要であると示唆された.