朝鮮市街地計画令は,内地の市街地建築物法と都市計画法を一体化した先進的法令として評価されることがあり,さらに朝鮮の特殊事情を盛り込んだと説明されている。本研究は,その制定過程において,如何なる問題認識の元に,どのような特殊事情が反映されたのか,京城(現;韓国ソウル)での都市計画制度の検討過程の分析を通して反映の実態を明らかにした。総督府主導で立案された朝鮮市街地計画令は,地元行政庁・有識者団体である京城府・京城都市計画研究会が提起した都市問題に概ね応えている。しかしながら,そもそも問題提起の中に朝鮮の伝統・文化的な独自性への視点が見られず,地元行政庁や民間有識者による計画の意志決定過程への参画は計画令では制限された。朝鮮半島の特殊事情の反映には,伝統的な家屋構造の合理化など,今日的視点からも評価し得るものはあったが,その反面,手続の効率性が優先され,総督に権限が集中したことを明らかにした。