2012 年 47 巻 3 号 p. 685-690
本研究では、2004年に制定されたスペイン・カタルーニャ州の「特別な注意が必要な界隈・市街地の改善に関する法律」(通称「界隈法」)を事例として取り上げ、同法の制定の経緯と理念、具体的な手法とプログラムの運用実態について明らかにすることを目的とする。界隈法は、州内の基礎自治体に、公共空間の整備や住宅の修復といった従来の物的環境整備に加えて、ジェンダー問題の解決や機会均等の実現、雇用教育プログラムといった社会的包摂の措置をひとつの都市政策として作成させ、それを補助金スキームとして展開させていくものである。プランの作成から事業の実施、多文化共生への試みに至るまで、多様な分野の参画の程度を指す「多次元性」、様々な行政組織によって推進される異なるプログラム、事業、政策の間の一貫性や協調関係を指す「マルチレベルにわたる協働」、異なる行政組織間の水平的調整を指す「横断性」が界隈法の基底をなす政策概念であり、これらを同時並行的に進めることで社会的統合が後押しされるという論理構造を有している。