2015 年 50 巻 3 号 p. 480-487
本研究は台北市大稲埕地区における歴史保全ツールとしての容積移転(TDR)について、2007年~2014年の運用プロセスとその変遷に着目して送出敷地への影響面から成果を評価し、今後の課題を明らかにすることを目的とする。研究方法としてTDRの制度及び運用プロセスについて関係者へのヒアリング調査の他、台北市及び国のTDR制度の発展について文献調査を行った。分析の枠組みとして歴史保全のハード的側面(質・量)、ソフト的側面(コンテンツ、社会経済組織)を設定し、それぞれの観点から影響要因を検討した。その結果、台北市大稲埕歴史風貌特定専用区のTDRにおける重要な要因として、歴史調査の義務付け、建物改修の5段階チェック、都市設計審議会の弾力的運営、柔軟な制度対応、容積ボーナスの5点が抽出された。特に容積ボーナスは強力なインセンティブとしてハード的側面の歴史保全に大きな成果を上げる一方、ソフト的側面の保全には課題が発生している。インセンティブ設計を容積ボーナスに頼っていたことが歴史保全において歪みを生じていると考えられ、容積ボーナスの再設計、容積以外のインセンティブの考案、規制の検討が必要である。