2016 年 51 巻 3 号 p. 1182-1188
2012年夏季五輪・パラ五輪が開催された英国ロンドンでは、「2012年までにラフスリーピング(RS)を終わらせる」という公的目標が掲げられ、多様なレベル・分野の行政体や民間支援団体が構成するLondon Delivery Board(LDB)が中心となってRS政策が展開された。LDBによる政策デザインにはRS生活者の包括的データベースCHAINが活用され、特定のグループに対象を絞った様々な支援策が短期間で生み出された。本論はこうした科学的データを根拠に展開されてきたロンドンのRS政策の変遷を明らかにすると共に、これらの取り組みが五輪を契機にしたものであったという観点から、現在まで遺るレガシーと新たに生まれた課題を、地域における実態から考察した。現在のロンドンにおける新規層への対策はLDBによる政策展開の一つの到達点と見ることができる一方で、支援システムの精度を上げそのシステムに全員をのせようとする取り組みが、逆に移民制度や都市空間制度上の抜け穴を鮮明にする結果となっていた。