2023 年 58 巻 3 号 p. 1040-1047
日本の地方都市では,公共交通の利用が低迷し,公共交通事業者の経営の悪化が進んでいる.このような状況では,公共交通のサービス水準が低下し,交通弱者が増加すると考えられる.これらの問題を解決する手段として,共有型自動運転車両(SAV)の導入が考えられるが,SAVの導入には,公共交通の補完や交通弱者の移動手段確保などのメリットがある一方,居住地の拡散や公共交通の利用減少などのデメリットもあると考えられる. <br />本研究では,都市内交通シミュレーションと土地利用交通モデルを用いて,地方都市にSAVを導入した場合の都市構造の変化と社会的便益を定量的に評価した.また,導入後の運用や対策として,SAVと既存公共交通の乗換およびSAVの運賃体系を考慮したシナリオ分析を行った.その結果,SAVを導入したすべてのシナリオにおいて社会的便益が正となり,SAVの導入に一定の社会的意義が示唆されること,SAVと公共交通の乗換を実施し,短距離においてSAV運賃を低く設定した場合に,居住地の拡散が抑えられ,公共交通事業者の収益が増加し,社会的便益が最も大きくなることを示した.