1987 年 7 巻 p. 17-21
往時の琉球王朝によって16~17世紀の間に領域内の各所から収集された古謡集である「おもろさうし」(全22巻、1554首) は、ときに「沖縄の聖典」、「沖縄の万葉集」などと称され、沖縄研究における第一級の文献と考えられている。「おもろさうし」は、古来伝わる沖縄各地 (奄美諸島含む) の古謡を、原語に従いつつも「特殊な操作」を施し、一部の単純な漢字のほかは平仮名で表現された、極めて難解な文献であった。明治以来の長期にわたる「おもろ」研究の蓄積により、今日その内容が明らかになりつつあり、わかりやすい漢字への解釈も加えられた評釈書も出るに及んでいる。
「おもろさうし」の含む多様な内容は、歴史学、民俗学、文学、芸能など広範に及び、これらの体系的な解明は、不透明な部分の多い沖縄古代研究に役立つものと、多くの学問的関心が寄せられている。
筆者は過去沖縄地域の土木史の研究をすすめてきているが、この観点から「おもろさうし」の調査。考察の必要性を痛感していた。本稿は近時、より接近しやすいかたちの「おもろ」文献の出現を得て、「おもろさうし」に含まれる土木的事象につき、その出現状況、叙述の状況を調査するとともに、併せて土木史料としての活用の可能性と限界につき考察するものである。