日本土木史研究発表会論文集
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水害防備林の変遷についてのー研究
松浦 茂樹山本 晃一浜口 達男本間 久枝
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1988 年 8 巻 p. 193-204

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抄録

河川環境が重視されている今日、樹木が注目されている。河川周辺の樹木と云えば、我が国には治水伝統工法の一つとして水害防備林がある。水害防備林は、立地位置より堤塘林、護岸林、水除林に分類される。
水害防備林は、近世までは重要な治水施設として管理・育成されていた。もちろん洪水の疎通の支障となる堤防上の樹木は、大風によって揺さぶられ堤防が危険になる等の否定する意見もあったが、幕府によって奨励され各藩でも整備された。
明治になっても太政官による「治水法規」の中に、堤脚を保護する竹木は保存するようにと指示されているように、水害防備林は重要視された。1897 (明治30年) 発布の森林法でも保安林に編入された。
明治末年から、政府により全国的な治水工事が進められた。近代治水事業は都市部そして大きな平野部での築堤事業を中心に行われ、一定の流量を氾濫原も含めた河道内に収めようとの考えを基本に進められた。河道内の樹木は洪水疎通に支障があるかどうかとの観点から見られ、それ以外の機能は検討範囲外に置かれていたというのが実状であろう。
一方それ以外の機能に注目していたのが林学、農学の関係者で、築堤による治水に加えプラス・アルファの効用を水害防備林に求めてきた。戦前でも水害防備林、遊水林の造成が奨励され、昭和20年代の大水害後には、現地調査を中心に研究が進められた。しかし社会経済の高度成長時代は、水害防備林に関心が払われることは少なかった。
河川環境が注目されている今日、樹木は重要な素材となり得るものである。また超過洪水対策が重要な課題となっているが、超過洪水対策の観点から、水害防備林のもつ効用を再度整理しておく必要があると筆者らは考えている。

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