1992 年 12 巻 p. 305-314
都市への人口集中を背景として, 交通・通信・エネルギーなどの都市インフラ整備の空間として, 都市の地下空間という資源がそれなりに役立ってきた. 特に, 世界の大都市の多くにおいて, マストランジットの一翼を担う地下鉄の整備が, この大都市そのものをかろうじて支えてきたといっても良いのではなかろうか.
地下鉄はロンドンにおいて, そして東京その他の都市において, より深く, ネットワーク化・ターミナル化が進み, また, その地下鉄駅を拠点に新しい都市の核が発達し, ついには地下街さらには地下都市を形成している事例も成立した.
本論文は, 地下鉄を例に, 都市の地下利用の歴史とその動向について, 考察を行ったものである. とりわけ, 本来的には人々が忌避する空間である「地下空間」を, 止むなく付合っていこうとする中から, 地下の空間デザインに対するアメニティの追求がめばえてきた. 今後は, 安全と快適という一見相反する命題を, 限られたコストの中で最大化していくあたりが残された課題と言えるのではなかろうか.