2019 年 33 巻 p. 21-38
本論において,筆者は上座部仏教の中におけるŚ とA の定義,修道論中のŚ,saddhādhimutta 第一とされるヴァッカリとシガーラカの母の伝承の3点を通してsaddhādhimutta の訳語の考察を行う。 パーリ聖典において,仏に対するŚ は修道の起点に位置しており,仏の教えを信じ(Ś を抱き),Ś を教えの理解によって強化することが求められる。ヴァッカリとシガーラカの母の伝承の中で,彼等のŚ はŚ に続く修行を実践するには強力過ぎたとされている。また,後者の伝承では,adhiniviṭṭha(入れ込んだ)がA の言い換えとして使用される。これは他のものに目を向けないというA の特徴をよく表している。 以上の検討から筆者は,村上・及川氏が提示するように,saddhādhimutta を「Ś に志向している者」「Ś に傾倒している者」と理解する。