Journal of Pesticide Science
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非殺菌性病害防除剤プロベナゾールの作用機構に関する仮説
関沢 泰治間瀬 定明
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1981 年 6 巻 1 号 p. 91-94

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抄録

非殺菌性病害防除剤プロベナゾールの作用機構研究はイネの誘導抵抗性の生化学的解明への糸口を与えた. イネの病害に対する抵抗反応はいもち病菌分生胞子中にすでに含まれる因子 (物質) によって誘発され, 病原菌の侵入した細胞を中心として宿主抗菌性物質の生成 (侵入阻止性化学的障壁の形成) およびリグニン系物質の沈着集積 (伸展阻止性物理的障壁の形成) により終わる一連の反応であるが, その過程に恒常的制御下にあると考えられるケミカル・メディエーターが関与していることが示唆されるに至った. そのメディエーターをIAAおよびIAA依存下に生成するエチレンとすることで現在得られている諸実験結果をよく説明しうることがわかってきた. これを統一的にとりまとめ作業仮説として「信号伝達モデル」を提出した. すなわち, イネいもち病菌胞子より耐熱性の高分子物質として抵抗性機構を活性化する因子が得られたので, 病原微生物学的見地から, 宿主細胞膜上にその受容体があり, この受容体の裏側の機能がケミカル・メディエーターの生成に関連し, RNA依存の酵素蛋白群の生合成が亢進し, 被侵入宿主細胞での化学的ならびに物理的障壁が形成されるとするものである. このモデルの適合性を評価し, 確立するには, 今後多くの病理生化学的実験による証明を要するが, この作業仮説を得たことによって結果の予想をしながら実験を導くことが可能となってきた. プロベナゾールおよびその分解・代謝物には植物ホルモン活性がないので, その作用域は受容体およびその裏側の機能に関連して病害抵抗性を上昇させるものと考えられる. さらに詳しくその作用点を分子レベルまで解明することはイネの誘導抵抗性の本態を明らかにするとともに新農薬のデザインに貢献するものと思われる.

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© 日本農薬学会
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