日本公衆衛生雑誌
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全国市町村における IT を活用した健康教育の実施状況と保健師の意識
甲斐 裕子山口 幸生
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2007 年 54 巻 9 号 p. 644-652

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抄録

目的 コンピュータやインターネット等の情報通信技術(IT)の発達に伴い,健康教育に IT を活用することが実現可能になりつつある。IT を用いた健康教育(IT 健康教育)の推進には,現場の実態やニーズを踏まえた研究開発が重要である。本研究では,全国の市町村における IT 健康教育の実施状況を明らかにし,それらを取り巻く環境,保健師の IT 健康教育に対する意識,および事業導入する際の妨げ要因を調査した。
方法 調査は市町村の老人保健事業における健康教育担当の保健師を対象として,2005年 2 月に実施した。人口 5 万人以上の全ての市区町村,および人口 5 万人未満の市町村については658市町村を無作為抽出し,計1,267通の調査票を郵送した。本調査における IT 健康教育の定義は「パソコン・携帯電話・電子メール・インターネット等の情報通信の方法を健康教育の主要なツールとして活用し,主に対象者とは対面せずに生活習慣改善や疾病予防を支援する取り組みであり,電話相談は含まない」とした。
結果 調査票の回収率は70.1%であった。パソコンやインターネットは95%以上の市町村で整備されていた。IT 健康教育の実施率は,人口 5 万人以上の市町村で3.9%,5 万人未満の市町村で1.1%であった。IT 健康教育の情報の認知度は,5 万人以上で74.2%,5 万人未満で63.7%であった。保健師は IT 健康教育の事業導入に対して,5 万人以上で42.5%,5 万人未満で25.0%が必要と考えていたが,両者とも「どちらともいえない」の割合が最も高かった(5 万人以上44.0%,5 万人未満54.3%)。事業導入した場合に予測されるメリットは,働きかける住民層の広がり・データ管理の効率化・プログラムの個別化であった。IT 健康教育導入を妨げる要因は,予算・マンパワー・利用できるプログラムの不在であった。
結論 調査時点で,IT 健康教育を実施している市町村は少数であったが,情報の認知度は高く,働きかける住民層の広がりやプログラムの個別化,データ管理の側面には大きな期待が寄せられていた。しかし,実際に利用できる方法やプログラムについての情報が乏しいためか,事業導入する必要性や可能性については,明確に判断しきれない状況にあることが示唆された。今後は,現場の要請に応えるプログラム開発と情報発信とともに,健康づくり現場への具体的ツールの提供が必要である。

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© 2007 日本公衆衛生学会
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