目的 本研究の目的は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19;以下,コロナ)拡大に伴う1回目の緊急事態宣言(以下,宣言)発令期間中および宣言解除後での高齢者の健康維持や交流を目的とした自主グループ活動(以下,グループ活動)の活動実態とその関連要因を検討することである。それにより,自治体や地域包括支援センター等の専門職がコロナ禍など非常時にグループ活動の再開や継続を支援する際に活用できる知見を提示する。
方法 2020年11月に,東京都A区内の町会・自治会とシニアクラブの会長372人を対象に質問紙調査を実施した。町会・自治会とシニアクラブが主体で開催する高齢者のグループ活動について,2020年4~10月での各月の活動形態を「活動を自粛・休止」,「工夫して活動を実施」,「通常通り活動を実施」から選択するように求め,潜在クラス分析により活動パターンを類型化した。活動パターンを従属変数とした多項ロジスティック回帰分析により,宣言発令期間中および解除後での活動パターンの関連要因を検討した。説明変数として,感染拡大前での開催内容の多様さ,開催頻度,参加者の平均人数,ボランティア・世話役(以下,世話役)の平均人数,80歳以上高齢者の有無,グループ内ソーシャルキャピタル,感染拡大前および宣言発令期間中の世話役と参加者との連絡頻度を投入した。欠損値は多重代入法により補完した。
結果 分析対象は206グループであった。潜在クラス分析により4活動パターンに分かれた:「自粛・休止群」,「工夫して再開群」,「工夫して継続群」,「通常通りで継続・再開群」。「自粛・休止群」を基準カテゴリーとした多項ロジスティック回帰分析の結果,宣言発令期間中に参加者と週1回以上連絡を取っていたことが「工夫して継続群」(オッズ比=5.25,95%信頼区間=1.19–23.21)と「通常通りで継続・再開群」(オッズ比=4.37,95%信頼区間=1.07–17.82)に関連していた。また「工夫して再開群」では,開催頻度が月2回以上(オッズ比=3.12,95%信頼区間=1.10–8.87),世話役数が6~10人(オッズ比=0.32,95%信頼区間=0.11–0.89)も関連していた。
結論 コロナ禍など非常時にグループが活動を再開・継続するためには,自治体・専門職は,宣言発令期間中だけでなく平常時からグループ内のコミュニケーションが円滑になるようにグループ活動を支援する,世話役数が多いグループを積極的に支援していく必要性が示唆された。
目的 生活保護受給者における入院受療状況と日本全体の入院受療状況を性別に年齢調整を行った上で傷病大分類別に比較をすることで,生活保護受給者における入院医療の疾病構造の特徴を明らかにする。
方法 観察対象集団を生活保護受給者,基準集団を日本全体とした間接法による年齢調整を性別に行い,傷病分類(ICD-10(2013年版)による大分類)別に標準化入院者数比を算出した。算出には公開されている政府統計のみを用いた。具体的には,厚生労働省による令和2年患者調査による性別・年齢階級別・傷病分類別の入院受療率,令和2年度被保護者調査による性別・年齢階級別被保護実人員,令和2年医療扶助実態調査による傷病分類別の入院件数を用いた。
結果 年齢調整(間接法)後の男女合わせた全傷病における標準化入院者数比は1.49であった。標準化入院者数比が高い傷病分類は,男女とも「Ⅴ.精神及び行動の障害」(標準化入院者数比,以下同じ),(男:4.06,女:3.45),「Ⅳ.内分泌,栄養及び代謝疾患」(男:2.40,女:1.47)の順であった。一方,標準化入院者数比が低い傷病分類については,男性では「ⅩⅥ.周産期に発生した病態」(0.43),「Ⅶ.眼及び付属器の疾患」(0.44),の順であり,女性では「ⅩⅤ.妊娠,分娩及び産じょく」(0.17),「Ⅶ.眼及び付属器の疾患」(0.27)の順であった。
結論 年齢調整を行った生活保護受給者の入院受療状況を検討した結果,傷病全体においては生活保護受給者の方が日本全体より高くなっていた。しかし,傷病分類別の検討では日本全体より高いものと低いものの両方が存在していた。生活保護受給者の医療扶助の状況を評価する上では,生活保護受給者数の年齢構成が日本全体とは大きく異なることを考慮した上で,疾患別の検討を行うことが望ましい。
目的 2020年の患者調査によると精神障害者数は600万人以上の人が精神科医療を受けている。非自発的入院が存在する精神医療患者への権利擁護を行う者(アドボケイト)の重要性が指摘されている。本研究は,Brashersらが患者のセルフアドボカシーの程度を測るために開発したPatient Self-Advocacy Scaleの日本語版(以下,日本語版PSAS)を作成し,その信頼性と妥当性を検討することを目的とした。
方法 まず原版を研究者5人で日本語に訳し,精神医療利用者5人に予備調査を実施し,質問文を修正した。次に修正した内容を翻訳家が逆翻訳を行い,逆翻訳を原版作成者が確認した。その後,完成した日本語版PSASの妥当性と信頼性を検証するためにオンラインアンケート調査を実施した。アンケートは精神医療利用者の当事者団体に調査協力を依頼し,メーリングリストで周知を行った。再検査法による信頼性の検討のため,一部の回答者には再調査を依頼した。信頼性の検討は尺度全体および下位尺度のCronbach α係数を算出し,再検査との相関係数の結果で評価した。妥当性の検討は,探索的因子分析と確認的因子分析を実施し,さらに各関連尺度(日本語版コントロール欲求尺度,医療に対する自律性に関する尺度,ヘルスローカスオブコントロール尺度)との相関係数の算出を行った。
結果 本調査は214人,再調査48人から有効回答を得た。回答者の診断名は気分障害(48.1%)と統合失調症(40.7%)が大部分を占め,通院期間は46.8%が10年以上だった。尺度全体および下位尺度分析のCronbachα係数は0.66~0.83,再検査の相関係数は0.69~0.84だった。妥当性については,探索的因子分析では原版同様の項目で3因子にわかれ,確認的因子分析ではある程度の適合度を示した(CMIN/DF=2.834,GFI=0.896,AGFI=0.841,RMSEA=0.093,AIC=198.542,CFI=0.888)。関連尺度との相関関係は,大部分の下位尺度との間に有意な相関があった。
結論 日本語版PSASは,一定の信頼性と妥当性が確認された。今後は精神医療利用者のセルフアドボカシーの評価尺度として,権利擁護に関する意識調査の一助になると考えられる。
目的 健康格差の包括的なモニタリング方法を検討するため,アウトカム指標として国際的に広く用いられている教育歴(学歴)と死亡率の関連を定量化し,その地域差を探索することを目的とした。
方法 国勢調査(2010年)と人口動態統計死亡票(2010–2015年)の匿名化個票データを取得し分析した。「性・生年月・居住市区町村・婚姻状況・配偶者の年齢(既婚のみ)」をリンケージキーとし,これが他の人と重複しない日本人をサンプル人口とした。日本人(30–79歳)7,984,451人(男性3,992,202人,女性3,992,249人:全人口の9.9%)が分析対象となった。確定的リンケージ法で国勢調査個票に死亡情報をリンケージした(5年間の死亡割合;男性:5.6%,女性:2.5%)。全人口とサンプル人口の比から性・年齢・都道府県・教育歴・職業の分布を用いた逆確率の重みを算出し,重み付けした教育歴別年齢調整死亡率,死亡率比とその都道府県比較を分析した。地域については市区町村を都道府県に集約した。教育歴は「中学・高校卒業者」と「大学以上卒業者」の2群を比較した。
結果 全国の男性の年齢調整死亡率(全死因,人口10万人対)は「大学以上卒業者」で1,025(95%信頼区間:1,013–1,037),「中学・高校卒業者」で1,245(95%信頼区間:1,238–1,253)であり,女性で「大学以上卒業者」で496(95%信頼区間:485–508),「中学・高校卒業者」で640(95%信頼区間:636–645)であった。「大学以上卒業者」に比べて「中学・高校卒業者」の死亡率比は男性で1.21(95%信頼区間:1.17–1.26),女性で1.29(95%信頼区間:1.17–1.41)であった。各都道府県において「大学以上卒業者」に比べて「中学・高校卒業者」の死亡率が高い傾向にありとくに男性でこの傾向が顕著であったものの地域差は小さいと示唆された。
結論 わが国において「中学・高校卒業者」は「大学以上卒業者」に比べて全死因死亡率が約1.2–1.3倍高いことが示された。地域ごとにみると男女とも死亡率比のばらつきは小さい可能性が高いが,死因別の考察を含め都道府県レベルの詳細な分析のためにはより精度の高い死亡率データベースの構築が必要である。
目的 COVID-19流行下の障がい児者,難病患者の障がい特性に応じた支援の難しさや重要性を考慮し,障がい児者,難病患者への支援活動や課題に関して行ったモニタリング活動を報告する。
方法 COVID-19流行下,2019年から2022年にかけて「障がい」と「難病」をキーワードに,情報収集を行い,課題抽出を行った。情報収集資料は,①日本公衆衛生学会,地方公衆衛生学会の総会抄録,雑誌(2019~21年),②海外学術雑誌,③新聞{全国紙(朝日新聞・読売新聞・毎日新聞・産経新聞),2021.1.1~2021.12.31(1年間)},雑誌,ホームページなどのメディア情報,④法律,通知,研究費などの行政情報,⑤患者団体の情報とした。日本公衆衛生学会へいくつかの提言を行った。
活動内容 2020年現在,障がい施設では感染対策の専門家から助言を受ける体制がない。COVID-19流行下,障がい者はCOVID-19に関する情報を得にくいなど障がい特性に起因する困難を抱えていた。障がい児は通所施設の閉鎖によりストレスを感じている。働き方の変化を考慮して,さらにWeb調査が必要である。2021年には自治体に対し,障がい特性に応じた障がい者への情報提供や感染症対応マニュアル作成が義務付けられ,学会などの支援が期待された。2022年は,自治体が主体となって医療・保健・福祉の連携が求められている。COVID-19含めた感染対策マニュアル作成含めて地域間格差をなくすためにも学会の支援が望まれた。
結論 COVID-19流行時に障がい者施設等福祉制度の支援に様々な専門家から助言を得られたことは,活動当初の目標を達成できたと考える。今後も各専門家が健康と福祉に取り残されている人がいないかという視点で活動をすることを期待したい。