日本公衆衛生雑誌
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原著
  • 杉浦 圭子, 相良 友哉, 高瀬 麻以, 中本 五鈴, 馬 盼盼, 六藤 陽子, 東 憲太郎, 藤原 佳典, 村山 洋史
    2024 年 71 巻 7 号 p. 337-348
    発行日: 2024/07/15
    公開日: 2024/07/23
    [早期公開] 公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は,介護老人保健施設で働く高年齢介護助手の個人特性や就労状況別の業務内容の特徴の明確化と業務内容と介護助手に就労することによって感じるメリットとの関連性の検討を目的とした。

    方法 2020年11月に全国老人保健施設協会に所属の2,571施設に郵送調査を行った。高年齢介護助手の定義は60歳以上等で,施設ごとに回答者は最大5人とし,599施設,1,606人から回答を得た。調査項目は,個人特性や就労状況の他,業務内容として13項目を設定し,「利用者の送迎・送迎補助」等の2項目を『利用者の移動補助』,「清掃・備品管理」等の5項目を『環境整備』,「食事の配膳・下膳」等の3項目を『食事関連補助』,「利用者の見守り・傾聴」等の3項目を『利用者の見守り・声かけ』と4つに分類した。介護助手の就労によって感じるメリットは,「社会貢献」「社会とのつながり」「生きがい」「収入」「介護からの学び」「健康維持・増進」「時間活用」の7つを設定し,2件法で回答を得た。

    結果 対象は女性が66.7%,平均年齢は68.4歳であった。利用者の移動補助の業務は男性や前期高齢者,週5日以上の勤務者の割合が高かった。利用者の見守り・声かけの業務は性別や年齢,勤務日数と関連はなく,流動的な勤務パターンの者の方が従事割合が高かった。就労により感じるメリットでは,利用者の移動補助に従事している者は社会とのつながり,介護からの学びのメリットと関連があった。環境整備への従事は,収入,健康維持・増進,時間の有効活用と,食事関連補助への従事は,介護からの学びとの関連し,利用者の見守り・声かけへの従事は,社会貢献,社会とのつながり,生きがい,介護からの学びのメリットと関連した。介護助手継続年数別にみると継続年数が短い者ではなく長い者で,先述と同じ傾向が多くみられたが,食事関連補助,利用者の見守り・声かけへの従事では継続年数が短い者で収入のメリットと負の関連がみられた。

    結論 高年齢介護助手は個人特性や就労状況により,従事する業務内容に特徴がみられた。就労により感じるメリットは,利用者との接触が多い業務は社会貢献やつながり,生きがいや介護からの学びというメリットと関連し,接触の少ない業務内容は収入や時間の有効活用と関連があり,介護助手の継続年数による違いもみられることが明らかとなった。

  • 中尾 凪沙, 平野 美千代
    2024 年 71 巻 7 号 p. 349-356
    発行日: 2024/07/15
    公開日: 2024/07/23
    [早期公開] 公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    目的 孤独はSolitudeとLonelinessに分けられ,日本では孤独を不快で苦痛を伴う体験であるLonelinessとして捉えている研究が主である。一方,Solitudeは他の人といる時でも人と関わらないことを選択することで発生するものであり,必ずしも否定的な感情を伴うものではない。本研究ではSolitudeに着目し,“一人でいることをポジティブな経験として,意識的・自発的に決定すること”を測定する日本語版Positive Solitude尺度(Japanese version of Positive Solitude Scale:JPSS)を開発し,その信頼性と妥当性を検証する.

    方法 JPSSはPalgi et al.(2021)のPositive Solitude Scaleの日本語版である.対象は,札幌市A区に在住する20歳以上の男女700人とし,2023年5~8月に,無記名自記式質問紙調査を実施した.調査項目は,基本属性,JPSS,収束的妥当性を検証するために主観的健康感,主観的Well-being,抑うつ,弁別的妥当性を検証するためにソーシャルネットワーク,孤独感で構成した.分析は,主成分分析と相関分析を用いた.

    結果 回収数は245部,有効回答数237部(有効回答率33.9%)であった.対象者の平均年齢は58.5±1.2歳,性別は「男性」111人(46.8%)であった.JPSS得点のCronbachα 係数は0.92であった.主成分分析の結果,9項目すべてで主成分負荷量が0.6を超えており,尺度全体の累積寄与率は62.3%であった.尺度総点は主観的健康感(ρ=0.210, P=0.001),ポジティブ感情(ρ=0.302, P<0.001),生活満足度(ρ=0.241, P<0.001)と有意な正の相関であった.また抑うつ,ネガティブ感情,ソーシャルネットワーク,孤独感とは有意な相関はなかった.

    結論 JPSSは信頼性と妥当性を有したソーシャルネットワークなどの社会的関係に影響を受けない尺度である.本尺度は,孤独感とは異なるポジティブな感情として自分の時間の認識を測定できる新たな尺度であると考えられる.

資料
  • 杉本 南, 朝倉 敬子, 片桐 諒子, 佐々木 敏
    2024 年 71 巻 7 号 p. 357-365
    発行日: 2024/07/15
    公開日: 2024/07/23
    [早期公開] 公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    目的 本研究は,エネルギー・栄養素摂取量に関する包括的なガイドライン「日本人の食事摂取基準」(以下,食事摂取基準)の使用実態を明らかにし,さらに使用実態の勤務施設種による違いを検討することを目的とした。

    方法 2023年7月に,食や栄養に関わる業務に従事する者を対象として,Web質問票調査を実施し,1,030人が回答した。日常業務での食事摂取基準の使用状況のほか,食事摂取基準で主に読む部分や使用にあたって困る点,改定版に関する主な情報源,改定での関心事項などを尋ねた。回答状況を,対象者が勤めている施設種別(医療機関,学校・福祉施設,行政,栄養士養成施設,企業,地域・その他)で比較した。

    結果 対象者の58%が,食事摂取基準を日常業務でとてもよく使う,またはよく使うと答えていた。これらの対象者において,よく使う業務は,医療機関や学校・福祉施設,企業では勤務施設の栄養素等基準値の作成,献立作成・給食管理と栄養管理・指導,行政では栄養管理・指導や講習/教材の作成,栄養士養成施設では講習/教材の作成,地域・その他では栄養管理・指導や講習/教材の作成が主であった。主に使う部分は,全体として,各論のエネルギー(66%),たんぱく質・脂質・炭水化物・エネルギー産生栄養素バランス(72%)を選んだ者が多かった。対象者全体において,食事摂取基準の使用にあたって困る点は,主に文字が多い・文章が長いために読むのに時間がかかることであった(全体の54%,施設種間の有意差なし)。食事摂取基準の改定版に関する主な情報源は,主に日本栄養士会のセミナーや研修会(全体の70%)であったが,行政と栄養士養成施設では厚生労働省による研修会や公開情報と答えた者も多かった。改定版で主に気になる変更内容は,全体の策定方針(77%)や,どの指標値に変化があったか(74%)は全体として関心が高い一方,個別の指標値の策定方法への関心は,他の施設種より栄養士養成施設で高い傾向があった。

    結論 本研究は,日本人の食事摂取基準が,食や栄養に関わる業務に従事する者により,日常業務においてよく使われていることを明らかにした。一方で,その使われ方や関心のある点,改定に関する情報収集の方法は施設種によって異なることが明らかになった。今後は,施設種での業務に即した記述の工夫や参考資料の作成,情報伝達方法が必要と考えられる。

  • 早渕 仁美, 武見 ゆかり, 太田 雅規, 坂田 郁子, 坂口 景子, 久保 彰子, 由田 克士, 北岡 かおり, 岡見 雪子, 大久保 孝 ...
    2024 年 71 巻 7 号 p. 366-375
    発行日: 2024/07/15
    公開日: 2024/07/23
    [早期公開] 公開日: 2024/03/29
    ジャーナル フリー

    目的 地域における減塩のための食環境整備においては,住民の減塩食品の入手可能性を把握し,その改善や活用の支援が必要である。しかし,その食環境アセスメント手法はまだ確立されていない。本報告では,地域における減塩食品提供状況調査方法の検討を行い,共通の方法と基準,実践のための手段を設け,全国で使用できるように標準化することを目的とした。

    方法 厚生労働省・経済産業省による大規模実証事業への協力と取扱商品リスト等情報提供の合意が得られた北九州市の全国規模の4店舗において,減塩食品提供状況の予備調査を行った。まず,店頭で調査員が直接調査して収集した店頭調査リストと,店舗から提供された取扱商品リスト(以下,店舗提供リスト)を比較,分析して,両調査の課題を抽出し,実施可能性と的確性を検討した。次に,予備調査で課題となった減塩食品の定義を明確にし,減塩食品分類基準を設定し,店頭調査の目安になる調査用減塩食品リストを作成した。また,店頭調査結果を記録するためのシートと調査用マニュアルを作成し,標準化を図った。そのマニュアルを用いて管理栄養士が店頭調査を行い,活用可能性を確認した。

    結果 予備調査で,店頭調査リストの方が店舗提供リストより調査漏れが少なく,実施可能性が高いことがわかった。減塩食品の定義を明確にした上で,以下を作成した。①店頭での調査と購入のしやすさを考慮して減塩食品の分類基準(3つの大分類,7つの中分類,37の小分類)を設定し,減塩食品分類基準表を作成した。②調査結果を記録する調査用減塩食品リストを用いて,個々の減塩食品提供状況を詳細に記入する入力用基準シートと,減塩食品の入手可能性を定量的に記入する集計用シート,および店舗別提供状況の有無を見える化した掲示用シートを作成した。③調査の目的と考え方,減塩食品の定義と分類基準,記録用減塩食品リストのシートについて説明した調査マニュアルを作成した。管理栄養士が①~③を用いて店頭調査とデータ収集・整理を的確に行い,減塩食品の入手可能性の定量的把握と見える化が容易に行えることを確認した。

    結論 減塩食品の入手可能性は,調査マニュアルと記録用シートを用いた店頭調査で,容易にまた的確に把握できることがわかった。この標準化された減塩食品提供状況調査は,地域の減塩対策において,食環境アセスメント手法の1つになり得ることが示唆された。

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