目的 職域において,生活歯援プログラム質問紙調査を用いた歯科健診を用いて,歯科衛生士の2通りの歯科保健指導方法による介入により,口腔内の自覚症状改善や口腔保健行動の変容に対する歯科保健指導の有効性を検討する。
方法 対象は,青森県の職域で歯科健診を実施していない5施設の職員とした。まず,生活歯援プログラムの内容に合わせた支援用教材(以下,ツール)を作成した。各施設で,初めに同プログラムの質問紙調査(21項目)を行った。調査後,両群(個別指導群と情報提供群)が同数となるよう参加者を交互に割り付けた。個別指導群には上記質問紙調査の結果票とツールとを配布し,ツールを用いて1人5分間の個別歯科保健指導を行い,情報提供群には結果票とツールの配布のみを行った。3か月後,初回と同じ質問紙調査を実施した。回答結果より,質問紙調査項目の変容に対する群内変化はマクネマー検定,同群間変化はロジスティック回帰分析を行った。
結果 参加者448人のうち,分析対象者は411人(個別指導群204人,情報提供群207人),男女比はそれぞれ74:130,67:140,年齢は中央値45(四分位範囲36–53)歳,同42(同34–54)歳であった。群内比較では,個別指導群で歯や口の困りごと1項目,自覚症状・口腔内状態2項目,口腔保健行動3項目,情報提供群で歯や口の困りごと1項目,環境支援1項目,口腔保健行動1項目で,歯科的に望ましい方向への有意な変化が見られた。群間比較では,個別指導群が情報提供群より「間食の摂取状況」が有意に改善された。
結論 群内比較では,ともに自覚症状改善や口腔保健行動の望ましい変容が見られたが,群間比較では明確な差は得られなかった。全体として,職域で歯科健診を行っていない施設に従事する者を対象に,本研究で設定した歯科保健指導による介入は,参加者自身の口腔症状や口腔保健行動に対する改善に有効であることが示唆された。
目的 国土交通省は,時速20 km未満で公道を走行可能なグリーンスローモビリティ(以下,電動カート)の導入を推進している。電動カート導入2か月後に社会的交流などの主観的指標の改善が報告され,長期的には介護予防効果が期待されている。そこで,電動カート利用および導入をきっかけに主観的指標が改善した高齢者において,1年後に要介護リスクが低減するか検証する。
方法 大阪府河内長野市,奈良県王寺町の住宅地で2022年7~8月より電動カートを運行した。運行前および1年後の2時点の自記式郵送調査に有効回答のあった65歳以上高齢者726人(河内長野市385人,王寺町341人)を分析対象とした。なお,1年後調査時に王寺町では電動カート運行継続していたのに対し,河内長野市では停止していた。目的変数は1年後の要介護リスクとし要支援・要介護リスク評価尺度(以下,リスク点数,点が高いほど高リスク)を用いた。説明変数は電動カート利用有無,電動カートをきっかけとした主観的指標の変化とした。主観的指標は,外出(3指標),社会的行動(5指標),ポジティブ感情(4指標)が電動カートをきっかけに増えたか確認した。調整変数はベースライン時点の性,リスク点数,教育歴,主観的経済状況,就労,日常生活活動動作,婚姻状況,同居とした線形回帰分析を行い,非標準化係数(B)を算出した。
結果 電動カート利用群は290人(39.9%)であった。電動カート非利用群を基準とした利用群のBは0.11(95%信頼区間-0.40~0.63)で有意な関連を認めなかった。主観的指標についても全対象ではいずれの項目も有意な関連は認めなかった。一方,王寺町のポジティブ感情である日常生活における楽しみが増えた,気持ちが明るくなる機会が増えた,生きがいを感じる機会が増えた者では,そうでない者と比較してそれぞれ-1.78(-3.21~-0.35),-1.51(-2.87~-0.15)-1.91(-3.53~-0.30)で有意にリスク点数が低減していた。
結論 電動カート利用群全体では要介護リスクとの関連を認めなかったが,運行継続していた王寺町のポジティブ感情増加者で要介護リスク低減していた。電動カートは移動支援のみならずポジティブ感情を生み出すという所見に再現性が確認され,そのような変化がみられた者では介護予防に寄与する可能性も新たに明らかとなった。
目的 近年,身体活動量の客観指標として歩数がスマートフォンでも確認でき,iPhone(Apple Inc.)ではデフォルトで記録されている。このiPhoneヘルスケアアプリの歩数グラフのスクリーンショット画像を用いて,大規模かつ遡及的な身体活動評価が可能となる「歩数読取ツール」が開発された。しかし,こうした歩数画像を収集した場合の調査協力者の特徴は明らかでない。本研究は,インターネット調査におけるiPhone使用者と歩数画像提供者の特徴を明らかにすることを目的とした。
方法 調査会社のパネル集団から20歳以上の神戸市民で2021年に実施されたウェブアンケート「身体活動・健康と地域環境に関する調査」に回答した5,369人を対象に,2022年に追加調査を実施した(2022年12月)。個人属性や歩行時間を質問し,iPhone使用者にはヘルスケアアプリ内の歩数グラフ画像2枚(1か月分と1年分)の送信を依頼した。2022年調査回答者を対象に,「iPhone使用」および「画像提供(iPhone使用者のみ対象)」の関連要因を多変量ロジスティック回帰分析で検討した。
結果 回答者3,308人のうち,画像提供者は349人(11%),iPhoneを使用しているが画像提供がなかった者は1,138人(34%),iPhone非使用者は1,821人(55%)であった。高いiPhone使用率と関連していたのは,65歳未満(調整オッズ比:2.45 [95%信頼区間: 2.04, 2.94] vs 65歳以上),女性(1.47 [1.26, 1.71] vs 男性),世帯年収600万円以上(1.39 [1.20, 1.62] vs 600万円未満),大卒以上の者(1.17 [1.01, 1.36] vs それ以外の者)であった。また,歩数画像の提供率は,65歳未満(3.58 [2.17, 5.90] vs 65歳以上),大卒以上の者(1.71 [1.32, 2.23] vs それ以外の者),総歩行時間が150分/週以上の者(1.66 [1.21, 2.28] vs 150分/週未満)で高かった。
結論 iPhone使用には,年齢,性別,世帯収入,教育歴が,歩数画像提供には,年齢,教育歴,身体活動量が関連していた。インターネット調査でiPhone歩数画像を収集する際は,iPhone使用者・画像提供者が様々な属性に偏った集団である可能性を考慮して解釈する必要がある。
目的 全国市区町村の母子保健を担当する保健師が希望する,産後うつ病に関する学習ニーズを明らかにする。
方法 全国1,741市区町村の母子保健担当部署に勤務する保健師,各部署1人を対象として,無記名自記式質問紙郵送調査を実施した。調査項目は,性別,年代,保健師経験年数,これまでの研修費用,研修の参加方法,今後希望する産後うつ病に関する学習内容等とし,調査は全23項目とした。分析は,各属性との関連にSpearmanの順位相関係数,研修参加有無との比較にMann–Whitney U検定,経験年数別の比較にKruskal–Wallis検定を用い,Bonferroniによる多重比較を行った。
結果 質問紙の配布数は,1,741部,回収数は630件(回収率36.2%)であった。年齢は平均40.0歳±9.4歳で,40歳代が233人(37.0%)と最も多かった。保健師経験年数は,平均12.7±8.9年で,1~5年166人(26.3%)が最も多かった。過去に産後うつ病に関する研修会への参加の有無では,「あり」501人(79.5%)であった。今後,産後うつ病に関する研修会への参加希望では,「あり」と回答したのは476人(75.6%)であった。これまでの研修費用は,無料427人(67.8%),公費242人(38.4%)が多く,自費68人(10.8%)であった。研修の実施形態の希望では,オンデマンド(需要に応じて動画視聴)研修325人(51.6%),オンライン(リアルタイム)研修284人(45.1%)の順に多かった。希望する産後うつ病に関する学習内容で,6割以上が「はい」と回答した項目は,産後うつ病の病態407人(64.6%),EPDSの正しい使用方法418人(66.3%),母親の精神症状をアセスメントする視点536人(85.1%),希死念慮・自殺念慮への対応方法478人(75.9%)であった。産後うつ病に関する研修会への参加の有無と学習内容では,「EPDSの正しい使用方法(P=.004)」および「地域にある社会資源(P=.002)」について有意な差が認められた。
結論 保健師の約8割が産後うつ病に関する研修会に参加した経験があり,今後も研修を希望していることが明らかとなった。研修方法では,情報通信技術を活用した学習方法を望み,希望する学習内容は,「母親の精神症状をアセスメントする視点」,「希死念慮・自殺念慮への対応方法」,「EPDSの正しい使用方法」,「産後うつ病の病態」など,実践に直結する学習内容が求められていた。
2024年4月から始まった「21世紀における国民健康づくり運動:健康日本21」(第三次)は,健康寿命の延伸をめざすと同時に,社会環境の質の向上等を通じて生活習慣や環境等による格差を縮小することで,健康格差(地域や所得等の社会経済状況による格差)の縮小を目指している。本稿は,ヘルスプロモーション政策における健康格差対策として求められる視点に言及する。併せて,今後の日本の健康格差対策のアクションプランの重要な要素の健康格差のモニタリングの現状と課題を論じる。
健康日本21(第三次)の目標設定では,健康日本21(第二次)に目標として掲げられた健康寿命の格差の縮小に加え,生活習慣や環境による格差の縮小が取り上げられた。都道府県の役割として,区域内の市区町村ごとの健康状態や生活習慣,社会環境の差の把握を行い,地域間の健康格差(地域格差)の是正に向けた取組にも触れられた。
これまで日本の公的統計を使用した研究から,栄養摂取状況や肥満率,喫煙率,循環器疾患の危険因子の保有状況,歯科保健領域等の多面的な分野について,社会経済状況の違いによる健康格差の実態把握が進んできているが十分とは言えない。また,健康格差を縮小させるための実践的かつ公的な取り組みは乏しい。日本における健康格差対策の現状は,実態把握,計画,実施,改善というマネジメントの段階のうち,実態把握をより発展させると同時に,効果的なアクションの提示や実行といった計画,実施を進め,それらを各地域でシステム化することが求められるフェーズにある。
海外の健康格差のモニタリングの取り組みと対策の実例を参考として取り上げるとともに,日本で実施可能な,公的統計を活用した,がん,喫煙,歯・口腔の健康に関する健康格差モニタリングを検討する。また,国内自治体の取り組みとして,静岡県での取り組みを取り上げる。
健康日本21のアクションプランとして,まず公開されている公的統計を用いて健康格差を多面的な視点から「見える化」する仕組みを作り上げる。また,地域での具体的な取り組みを考えるために,従来からの都道府県間の格差ではなく市区町村のような小地域間での格差をモニタリングする仕組みづくりに移行する必要がある。政府や地方自治体,研究者が一丸となってモニタリングやアクションの計画・実行に取り組むことで,実態に即した健康格差対策の議論に結びつくことが期待される。
目的 保健師教育の大幅な教育改革を行った英国に公衆衛生人材の育成について学び,日本の保健師および公衆衛生専門職の教育に示唆を得ることを目的とした。
方法 本学会公衆衛生看護のあり方に関する委員会が中心となり,本学会国際化推進委員会,日本公衆衛生看護学会国際委員会と共催によりオンライン講演会を開催した。講演タイトルは「社会が望む実践力を拓く英国の新たな保健師教育」であり,講師は英国ヘルスビジター協会で上級人材育成リーダーを務めるKaren Whittaker氏に依頼した。講演は,2024年6月に行い,ライブ配信と1か月のオンデマンド配信を行った。講演当日は,各委員会より委員が出演し,対話によって理解を深めた。
活動内容 講師から,英国における公衆衛生の位置づけ,健康格差の課題,関連するサービスシステムの概要が説明された。とくに,イングランドにおけるヘルシー・チャイルド・プログラム,ヘルスビジティングに焦点を当てた公衆衛生看護,英国ヘルスビジター協会の活動について説明があった。質疑応答では,サービス設計,健康格差に対処するための多様性に関する現任教育,多職種による協働に議論が広がった。また,ヘルスビジターのキャリアパスの可能性,Specialist Community Public Health Nurse(SCPHN)の大学院レベルでの基礎教育,独立した規制機関であるNursing and Midwifery Councilによる3年毎の登録更新に必要な専門的能力と継続的専門能力開発(CPD)について議論した。ヘルスビジターをサポートする英国ヘルスビジター協会の役割と目的,英国ヘルスビジター協会が取り組んでいる課題について取り上げ,理解を深めた。ライブ配信とオンデマンド配信を合わせ,合計636件の視聴があった。
結論 健康格差への英国の取り組みは,比例普遍主義に基づいていた。多民族国家の英国では,公衆衛生に関わる人材に民族の多様性に関する教育が行われており,日本の教育を検討する際の参考になった。英国では,SCPHNの全国共通の基準に基づく基礎教育やCPDが組織的に行われており,専門職としての質保証につながっていると考えられた。日本では保健師の基礎教育やCPDは統一されているとは言い難く,共通基盤に立った教育を組織的に行う必要性があると考えられた。