日本公衆衛生雑誌
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総説
  • 中澤 眞生, 堀 愛, 井坂 ゆかり, 市川 政雄
    2026 年73 巻1 号 p. 3-21
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/01/29
    [早期公開] 公開日: 2025/10/13
    ジャーナル フリー
    電子付録

    目的 日本では外国人労働者の増加に伴い,彼らが被災する労働災害が増えている。外国人労働者は2013年には72万人であったが,10年間で2倍以上に増え,2023年には過去最高の200万人に達した。それに伴い外国人労働者の労働災害も増加し,2023年には死傷者が5,672人となった。外国人労働者の労働災害を予防するには,従事する産業に配慮した対策の強化が求められる。そこで,本研究ではスコーピングレビューに基づき,外国人労働者の労働災害にみられる問題を産業別に整理した。

    方法 レビューの対象は,1990年から2023年(検索を行った10月まで)に出版された文献である。学術文献の検索にはCiNii Research,医中誌Web,PubMedを用いた。また,広範囲から情報を収集するために,公益財団法人国際人材協力機構の総合情報誌「かけはし」,厚生労働省・公益財団法人国際人材協力機構のウェブページも検索の対象とした。検索後は2人が各自タイトル・要旨を確認し,外国人労働者の労働災害について記載がある文献を選抜した。それから本文(本文がない場合は要旨)を各自通読し,採用する文献を決定した。1事例に基づく報告は事例報告,複数の事例をもとにデータ分析したものは調査報告と区分した。また,特定の産業を取り扱った文献は日本標準産業分類に沿って分類した。

    結果 重複した文献を差し引いた885件を2人が確認し,73件(調査報告37件,事例報告36件)がレビューの対象となった。調査報告を産業別にみると「農業・林業」が3件,「建設業」が2件,「製造業」が3件,「運送業・郵便業」が1件,その他28件は特定の産業を対象にした調査ではなかった。産業別にみた問題として,農業・林業では外国人労働者が農業機械の取り扱いを十分に理解していない,忘れてしまうこと,建設業では外国人労働者が建設現場における安全の基本を理解していないこと,製造業ではプレス機械の安全装置の不備,機械の誤操作,安全教育の不足が指摘され,農業・林業,建設業では問題に応じた対策が行われていた。一方,産業によっては特有の問題が示されていなかった。

    結論 外国人労働者の労働災害を予防するには,それぞれの産業で不足している情報を収集することが不可欠である。

原著
  • 三輪 静華, 水谷 真由美, 谷村 晋, 西出 りつ子
    2026 年73 巻1 号 p. 22-33
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/01/29
    [早期公開] 公開日: 2025/09/08
    ジャーナル フリー

    目的 新任期保健師の実践能力向上は喫緊の課題であり,管理期保健師が改善しうる組織要因を明らかにすることは,組織における効果的な人材育成のために重要である。そこで本研究は,「行政保健師の総合的キャリア発達尺度第2版」による10種類の新任期保健師実践能力に対する管理期保健師の育成困難認識とそれに関連する組織要因を明らかにすることを目的とした。

    方法 2023年11月に,東海北陸7県210市町村の管理期保健師(1,196人)のうち,各市町村の上席者5人を対象に,郵送またはインターネット調査法による無記名自記式質問紙調査を実施した。10種類の新任期保健師実践能力について,育成困難と認識する割合を算出した。育成困難認識割合が半数以上の実践能力に対して,管理期保健師が育成困難と認識するか否かを目的変数,組織要因18項目(自治体特性3項目,教育人材3項目,教育体制12項目)を説明変数,対象属性8項目を調整変数とした回帰モデルにデータを当てはめ,Prevalence Ratio(PR)およびAdjusted Prevalence Ratio(APR)を推定した。

    結果 326人の管理期保健師から回答を得(回収率31.0%),解析対象とした。対象者の経験年数は平均25.2年,配属部署は保健部門が68.5%であった。育成困難認識割合が高かった実践能力は,地域の健康危機管理に対応できる能力(57.3%),複雑困難な個人や家族の健康問題解決の支援ができる能力(52.1%),セルフヘルプグループや地域組織を支援できる能力(50.0%)であった。それらの3種類に対し,組織要因4項目(教育人材2項目:新任期保健師にプリセプター配置,人材育成責任者の設置;教育体制2項目:保健師全体で育ち合う職場風土,職場全体に人材育成への関心の高まり)との関連を認めた。このうち,「保健師全体で育ち合う職場風土」は,ない場合に「セルフヘルプグループや地域組織を支援できる能力」が育成困難であると認識していた(APR 1.52, 95% CI 1.12–1.93)。他の3項目は,教育人材や教育体制がある場合に育成困難と認識していた。

    結論 新任期保健師の「セルフヘルプグループや地域組織を支援できる能力」に対する管理期保健師の育成困難認識に関連する組織要因は,保健師全体で育ち合う職場風土がないことであった。この組織要因を強化することが新任期保健師の人材育成に資する可能性が示唆された。

公衆衛生活動報告
  • 佐藤 陽香, 細野 晃弘, 門内 一郎, 堀江 徹, 須藤 章, 平野 雅穏, 村上 邦仁子, 劔 陽子, 矢野 亮佑
    2026 年73 巻1 号 p. 34-45
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/01/29
    [早期公開] 公開日: 2025/09/08
    ジャーナル フリー
    電子付録

    目的 日本は国際保健の経験を積み重ねており,低中所得国では少ない資源を有効に活用する保健衛生政策の立案・実施・評価が求められることから,国際保健の経験から得られた知見が国内の地域保健にも応用できる可能性がある。本調査では国際保健の経験者が持つコンピテンシーや知見とその獲得プロセスを明らかにし,これらが日本国内の地域保健にどのように応用可能かについて考察することを目的とした。

    方法 調査は日本国内で地域保健に従事し,かつ国際保健の経験を持つ5人の公衆衛生医師を対象に,対面またはオンラインでのインタビューを実施した。インタビュー項目には,基本属性,国外勤務を開始した経緯と業務内容,国外勤務の経験内容とコンピテンシー形成との関連,日本の地域保健に関する仕事をする上で重要と考える能力やコンピテンシー,国外保健と国内の地域保健をつなげるために重要なことを含めた。コンピテンシーについてはM-GTA(Modified Grounded Theory Approach)手法を用いて分析を行った。

    活動内容 インタビュー対象者は,男性3人,女性2人であり,調査時には国内の行政機関に勤務していた。国際保健経験者のコンピテンシーとして,【進取の気性】,【誠実性】,【適応力】,【構築力】,【課題分析と解決戦略】の5つが特定された。コンピテンシー獲得のプロセスでは,【進取の気性】,【誠実性】,【適応力】が基盤となり,国際保健の経験から【構築力】,【課題分析と解決戦略】が強化されていった。

    結論 国際保健経験者のコンピテンシーのうち【適応力】と【誠実性】は思考パターン,【構築力】と【課題分析と解決戦略】は行動パターンを示すと考えた。国際保健経験者は,好奇心や積極性などの【進取の気性】が強く,海外での経験を通じて【適応力】と【誠実性】が向上していた。また,現地では地域の現状や課題を客観的に分析し,地域住民を巻き込んで問題を解決するアプローチを身につけており,国際的な保健活動における持続可能なアプローチや健康格差の解消に向けた視点も養われていた。そのような視点は日本の地域保健にも必要な視点であり,健康格差の解消に役立つ可能性がある。今後,インタビュー調査は,対象を保健師など他職種にも広げ,国内外の地域保健の向上に資する人材のコンピテンシーの解明を進めたい。

  • 坂田 裕介
    2026 年73 巻1 号 p. 46-53
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/01/29
    [早期公開] 公開日: 2025/10/13
    ジャーナル フリー

    目的 日本国内におけるレジオネラ症の集団発生事例では,感染源の大部分が浴槽水である。本報告では,公衆浴場や宿泊施設にある浴槽の監視に役立つ知見を得るため,衛生管理状況とレジオネラ属菌の検出との関連,アデノシン三リン酸(以下,ATP)を事前検査として使用する手法の課題を検討した。

    方法 2017年度から2024年度に,富山県高岡市内の公衆浴場や宿泊施設にある浴槽を対象に監視を実施した。監視では,聞き取り調査と簡易水質検査を行った。浴槽水のATPが80 RLU(Relative Light Unit)以上あった場合はレジオネラ属菌の検査を行った。レジオネラ属菌の検査を行った浴槽を対象とし,6つの衛生管理項目とレジオネラ属菌の検出との関連を分析した。また,ATPとレジオネラ属菌の検出との関連を分析した。

    活動内容 分析対象とした浴槽は94件で,そのうち29件でレジオネラ属菌が検出された。採水時の遊離残留塩素濃度と集毛器の洗浄・消毒については,レジオネラ属菌が検出された浴槽と検出されなかった浴槽で,基準の適合率に20.7~23.2%の差があった。採水時の遊離残留塩素濃度と集毛器の洗浄・消毒の両方が基準に適合していなかった場合の検出率は85.7%(6/7件)と最も高かった。循環式で水道水を使用している浴槽での検出率は85.7%(6/7件)であった。しかし,同じ循環式でも地下水を使用している浴槽での検出率は25.0%(19/76件)であった。非循環式で地下水を使用している浴槽での検出率は36.4%(4/11件)であった。

    結論 遊離残留塩素濃度の管理だけではレジオネラ属菌の増殖を防ぐことは難しく,集毛器の洗浄・消毒は1週間に1回以下になると,レジオネラ属菌の増殖リスクが高まる恐れがある。とくに遊離残留塩素濃度と集毛器の洗浄・消毒の両方が基準に適合していない場合,早急な改善が必要と考えられる。ATPを事前検査として使用するには,地下水を使用している浴槽での検出率を向上させる方法を検討する必要がある。

  • 朝長 諒, 姜 英, 藤本 俊樹, 山根 崇弘, 本多 世麗, 横谷 俊孝, 大和 浩
    2026 年73 巻1 号 p. 54-59
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/01/29
    [早期公開] 公開日: 2025/10/13
    ジャーナル フリー

    目的 改正健康増進法(2020年)では,屋外や家庭においても「望まない受動喫煙」をなくすことが努力義務とされた。これに伴い,都市部では屋外喫煙所の設置が進む一方,その効果や基準に関する評価は十分ではない。本研究は,屋外喫煙所の周囲で微小粒子状物質(PM2.5)濃度の測定により,受動喫煙の曝露状況を評価し,屋外喫煙所設置時の留意事項を明確にすることを目的とする。

    方法 2021年4月から2024年12月にかけて,四方を壁で囲み,出入り口がクランク状の屋外喫煙所34か所およびコンテナ型の屋外喫煙室10か所の内部と周囲のPM2.5濃度をデジタル粉じん計を用いて測定を行った。そのうち典型的な屋外喫煙所4か所とコンテナ型屋外喫煙所1か所について報告する。

    活動内容 以下の4点について検討を行った。①壁の高さの効果については,壁高3.2 mでは,内部のPM2.5濃度は平均41 µg/m3,風下方向の平均濃度は5.4 µg/m3で,壁高2.5 mでは,内部濃度は平均38 µg/m3,風下方向の平均濃度は9.5 µg/m3に抑制された。②クランクの形状については,クランクの重なりが不十分で喫煙可能区域が外部から見通せる場合,喫煙所外での濃度が上昇した。③壁下部の隙間からの拡散については,隙間が2~5 cmであっても,隙間からの漏れにより,外部濃度が瞬間的に164~400 µg/m3まで上昇した。また,壁下部を完全に塞いだ場合,泥等の堆積を認めた。④コンテナ型喫煙室(HEPAフィルターを用いた空気清浄機を設置)については,HEPAフィルターを通じて排気された空気中のPM2.5濃度は,内部環境が平均548 µg/m3に対して,平均9.3 µg/m3であった。

    結論 以下の点を踏まえた屋外喫煙所の適切な設計と基準は受動喫煙防止に効果的であることが示された。①4方向を十分な高さ(2.5 m以上,可能な範囲で高く)の壁で囲う。②出入口は十分な重なりがある二重クランクとする。③壁と路面の間の空間は泥等の堆積を防ぐため1 cm程度とし,一部のみ開放する。④コンテナ型喫煙室ではHEPAフィルターを用いた空気清浄機を用いる。

    非喫煙者を受動喫煙から保護し,喫煙者には喫煙所の内部に禁煙外来などの啓発的な情報を掲示し,喫煙率の低下に寄与することが根本的な対策と考えられた。

資料
  • 室橋 彩佳, 太田 亜里美, 村山 伸子, 坂本 達昭, 小林 知未, 堀川 千嘉, 西岡 大輔
    2026 年73 巻1 号 p. 60-70
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/01/29
    [早期公開] 公開日: 2025/10/15
    ジャーナル フリー
    電子付録

    目的 生活困窮者の自立を支援する上で重要な一つの側面に健康支援があるが,その地域における取組実態や行政内外との具体的な連携先の実態は十分に明らかになっていない。本研究では,生活保護制度の実施主体である福祉事務所と生活困窮者自立支援制度の自立相談支援事業における主な実施機関である社会福祉協議会を対象に,初回面談時の事業対象者の健康状態や食事状況の確認,それらの状況を評価するためのアセスメントシートの活用状況,行政内外との連携状況および食生活支援内容について明らかにすることを目的とした。

    方法 2024年1月に全国1,250の福祉事務所および全国612の社会福祉協議会に対しアンケート調査を行った。事業対象者への健康・食生活支援実施状況として初回面談時の事業対象者の健康状態や食事状況の確認,それらの状況を評価するためのアセスメントシートの活用状況,行政内外との連携状況および食生活支援内容について回答を求めた。

    結果 福祉事務所および社会福祉協議会の50%以上が事業対象者との初回面談時に確認していた項目は,健康状態では「体調」「定期的な通院・服薬状況」「移動手段」,食事状況では「外食,中食,自炊状況」「食事回数」であった。健診受診状況を確認していた団体は福祉事務所,社会福祉協議会ともに30%程度であった。福祉事務所の50%以上はアセスメントシートを使用していなかった。社会福祉協議会はアセスメントシートを使用していたが,とくに食事状況の確認項目がなかった。他団体との連携状況は,福祉事務所では保健医療部門との連携がみられ,社会福祉協議会では幅広い団体との連携がみられた。フードバンク等の食品提供支援と合わせた食生活への助言,子ども食堂等の情報提供等を行っている団体は未実施の団体より連携団体合計数の平均値が有意に高かった。

    結論 支援対象者の健康状態や食事状況を評価するアセスメントシートの活用や,保健医療専門職を含めた他団体と連携を進め支援をつなげていくことが,今後重層的な健康・食生活支援を推進するために必要となると考えられた。

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