日本公衆衛生雑誌
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マンモグラフィを併用した乳がん検診の受診行動に関わる認知的要因
犬飼 早苗二宮 一枝
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2010 年 57 巻 9 号 p. 796-806

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抄録

目的 防護動機理論に基づき,マンモグラフィを併用した乳がん検診の受診行動に関わる認知的要因を明らかにする。
方法 A 県 B 町および C 町在住の40~69歳の女性2,345人を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した。調査票に倫理的配慮を明記し,個別の郵送をもって承諾とした。分析は,受診行動(定期受診,不定期・未受診)を従属変数,防護動機理論に基づく認知的要因(乳がんが早期発見されない事態が生起した場合に被る身体的・精神的・社会的な危害の程度に対する認知である「深刻さ」,乳がんが早期発見されない事態が生起する可能性への認知である「生起確率」,乳がんが早期発見されない事態や随伴する深刻な事態に対し受診行動がもたらす効果性への認知である「反応効果性」,自己が受診行動を遂行できることの確信に対する認知である「自己効力」,受診行動に伴う負担への認知である「反応コスト」)を独立変数,および単変量解析の結果,受診行動と認知的要因の双方と有意な関連がみられた個人特性を統制変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。
結果 調査票を回収できた788人(回収率33.6%)のうち,欠損値がなく,乳がんの既往がない497人を分析対象とした。定期受診でかつ最近 2 年以内に受診したと答えた218人を定期受診群,それ以外の279人を不定期・未受診群とした。受診行動と認知的要因の双方と有意な関連がみられた個人特性は,視触診方式の乳がん検診受診歴,受診勧奨,身近な受診者であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,定期受診群は不定期・未受診群と比較して,自己効力が有意に高く,反応コストが有意に低かった。防護動機理論では,自己効力は対処行動に対して促進的な効果をもち,反応コストは抑制的な効果をもつと仮定されており,本研究結果はこれを支持した。マンモグラフィを併用した乳がん検診の受診行動を促進するためには,自己効力と反応コストの 2 つの認知的要因に注目し,医師および保健師から受診勧奨を受けること,視触診方式の乳がん検診を受診することが有効である可能性が示唆された。
結論 マンモグラフィを併用した乳がん検診行動は,自己効力と反応コストの 2 つの認知的要因に注目すると,医師および保健師から受診勧奨を受けること,視触診方式の乳がん検診を受診することで,促進される可能性が示された。

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© 2010 日本公衆衛生学会
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