日本公衆衛生雑誌
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原著
子どものう蝕に対する保護者の消極的受診態度に関する要因の探索的研究
井上 裕子松山 祐輔伊角 彩土井 理美越智 真奈美藤原 武男
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2020 年 67 巻 4 号 p. 283-294

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抄録

目的 う蝕は進行性の疾患であり,う蝕と診断された場合には早期に受診し適切な管理を受けることが重要である。しかし,う蝕と診断されても歯科受診に至らない子どもの存在が問題となっている。本研究では,う蝕と診断された子どもの歯科受診に消極的な保護者の態度(消極的受診態度)に関連する要因を明らかにすることを目的とした。

方法 東京都足立区で実施された「足立区子どもの健康・生活実態調査」の2016年の調査データを使用し横断研究を行った。区立小学4年生,6年生,中学2年生の保護者1,994人に調査票を配布し,1,652人から有効回答を得た(有効回答率83%)。子どものう蝕が指摘された場合に保護者がすぐに歯科医院に連れて行けるかを「すぐに行く」「すぐには行けない」の二択で回答を得た。また,すぐには行けないと回答した理由についても回答を求めた。受診態度が実際の受診行動を反映しているか検証するために,学校歯科健康診断の結果から得た未処置歯の有無とクロス集計し,指標の妥当性を確認した。受診態度および未処置歯の項目が欠損値でない1,613人を対象に,消極的受診態度と子どもの性別,学年,世帯収入,父母の最終学歴,家族構成,きょうだい人数,祖父母との同居,父母の就業形態,父母の帰宅時間,朝食の頻度,間食摂取の自由度,ジュースの摂取頻度,歯みがき回数,子どもとの関わりの関連をロジスティック回帰分析で検証した。

結果 269人(16.7%)の保護者が消極的受診態度を示した。その理由として「歯科医院へ連れていく時間がないから」(172人,55.8%)がもっとも多かった。

未処置歯のある子どもの保護者は消極的受診態度を示す者が有意に多かった(P<0.001)。母親の最終学歴が中学校または高校であること,子どもが朝食を食べないこと,歯磨き回数が少ないことが保護者の消極的受診態度に有意に関連した。小学生においては,母親が就業していること,母親の帰宅時間が遅いこと,保護者が子どもの勉強をみていないことも保護者の消極的受診態度に有意に関連した。

結論 医療費助成のある地域であっても,子どもの歯科受診は母親の社会的背景および家庭要因の影響を受けることが明らかになった。消極的受診態度の改善には,医療費助成だけでなく,家庭の社会的背景にも配慮した支援を積極的に行っていくことが求められる。

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