日本公衆衛生雑誌
Online ISSN : 2187-8986
Print ISSN : 0546-1766
ISSN-L : 0546-1766
論壇
諸外国でのがん登録データの地理情報の利用事例とわが国の全国がん登録の諸問題
片野田 耕太伊藤 秀美伊藤 ゆり片山 佳代子西野 善一筒井 杏奈十川 佳代田中 宏和大野 ゆう子中谷 友樹
著者情報
ジャーナル フリー

2023 年 70 巻 3 号 p. 163-170

詳細
抄録

 諸外国では,がん登録を始めとする公的統計データの地理情報を用いた研究ががん対策および公衆衛生施策に活用されている。日本でも2016年に全国がん登録が開始され,がんの罹患情報のデータ活用が制度的に可能となった。悉皆調査である全国がん登録は,市区町村,町丁字など小地域単位での活用によりその有用性が高まる。一方,小地域単位のデータ活用では個人情報保護とのバランスをとる必要がある。小地域単位の全国がん登録データの利用可否は,国,各都道府県の審議会等で個別に判断されており,利用に制限がかけられることも多い。本稿では,がん登録データの地理情報の研究利用とデータ提供体制について,米国,カナダ,および英国の事例を紹介し,個人情報保護の下でデータが有効に活用されるための方策を検討する。諸外国では,データ提供機関ががん登録データおよび他のデータとのリンケージデータを利用目的に沿って提供する体制が整備され,医療アクセスとアウトカムとの関連が小地域レベルで検討されている。日本では同様の利活用が十分に実施されておらず,利用申請のハードルが高い。全国がん登録の目的である調査研究の推進とがん対策の一層の充実のために,他のデータとのリンケージ,オンサイト利用など,全国がん登録を有効かつ安全に活用できる体制を構築していく必要がある。

著者関連情報
© 2023 日本公衆衛生学会
次の記事
feedback
Top