2025 年 72 巻 8 号 p. 541-548
目的 経済的な理由により学校給食費を滞納した経験のある世帯の生活状況の実態を記述し,給食費滞納問題,ひいては子どもの貧困問題に対する対策を検討するための基礎資料を得ること。
方法 JACSIS研究(2023年)のデータから,同居している子どもの内1人以上が学童期である者を対象とした。給食費滞納経験は,過去に経済的理由により子どもの給食費が払えなくなったと回答した場合を「滞納経験あり」,そうでない場合を「滞納経験なし」と定義した。給食費滞納経験有無別の世帯の貧困状態や保護者と子どもの生活状況を評価するため,世帯の貧困状態の指標としては,剥奪,世帯年収,所得の変化,食糧不安などを用い,保護者と子どもの生活状況の指標としては,小児期逆境体験に関する項目を用いて,各項目の該当人数と割合を算出した。
結果 1,919人の調査参加者のうち,給食費滞納経験なしと回答した参加者は1,831人(95.4%),ありと回答した参加者は88人(4.6%)であった。給食費滞納経験なしの場合,剥奪状態にある割合は9.1%であるのに対し,滞納経験ありの場合は97.7%が剥奪状態にあり,給食費の他にも衣食住に関わる様々な支払いに滞納経験があった。また,滞納経験ありの場合,世帯年収は400万円以下(滞納経験なし10.0% vsあり17.1%),あるいは所得が減った割合が高く(なし48.4% vsあり85.2%),食糧不安がある割合も高かった(なし11.2% vsあり26.1%)。給食費滞納世帯の子どもは,また小児期逆境体験に関するすべての項目において「分からない」もしくは「答えたくない」と回答された割合が高く,保護者の精神疾患(なし7.4% vsあり27.3%)や家庭内暴力(なし14.4% vsあり80.7%)などの経験も多かった。
結論 給食費滞納世帯の背景には,深刻な貧困状態と,子どものマルトリートメントを疑う状況がある可能性が高かった。給食費滞納の発生をきっかけに背景にある見えにくい貧困問題を掘り起こして支援につなげていくことができれば,給食費の滞納を減らすだけでなく,子どもたちが健やかに育つ権利を守ることができるかもしれない。