日本公衆衛生雑誌
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総説
日本国内でのCOVID-19下水サーベイランスのエラー要因および継続的実用性について
井上 史也安齋 麻美三浦 郁修木下 諒新井 智神垣 太郎鈴木 基米岡 大輔
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2026 年 73 巻 3 号 p. 227-236

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抄録

目的 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに対応する中で,下水サーベイランスの有用性が再び注目されている。下水サーベイランスは,不顕性感染も含めて社会に循環する病原体を把握し,アウトブレイクの早期警告を可能にする。しかし,COVID-19に下水サーベイランスを適用する際には,いくつかのエラー要因を考慮する必要がある。本研究では,COVID-19の下水サーベイランスにおける主要なエラー要因の検討と,日本国内における今後の実用性について議論した。

方法 COVID-19における下水サーベイランスに関する研究を対象として,PubMedおよびGoogle Scholarを用いた文献検索を行い,その結果を基にナラティブレビューを実施した。検索には,「wastewater(廃水)」,「sewage(下水)」,「COVID-19(新型コロナウイルス)」,「SARS-CoV-2」,「fecal/urine(糞便/尿)」および「surveillance/survey/detection(監視・サーベイランス/調査/検出)」といったキーワードを使用した。

結果 PubMedでは2,108件の文献が抽出され,そのうち19件をレビューの対象とした。また,Google Scholarから抽出した,6件の学術論文に加えて,2件の政府機関による報告書・ガイドラインをレビューの対象とした。下水サーベイランスにおけるエラー要因として,サンプリング方法や下水の温度・流下時間・流量などの環境要因とその標準化の困難さが挙げられた。また,対象地域のCOVID-19有病率,人口規模,人口の移動などもデータ解釈に影響を与える。さらに,下水サーベイランスは年齢や性別などの患者の背景情報や症例の発生場所に関する情報が不明確であることが多く,臨床検査によるサーベイランスと比較してデータ解釈が難しくなる可能性がある。一方,大規模な臨床検査によるサーベイランスと比較すると,下水サーベイランスは比較的安価かつ迅速に行うことが可能であり,継続的なモニタリングに適している。統計解析の観点からは,サンプル間や地域間,時期間での正確な比較を行うために,サンプルの正規化が重要である。またCOVID-19の下水サーベイランスではシグナル:ノイズ比が小さいため,実務的に有用なシグナルを検出するためには適切な平滑化が必要となる。

結論 COVID-19の下水サーベイランスには多くのエラー要因が存在するが,臨床検査に比べて低コストで広範な地域を継続的にモニタリングできる利点を有している。臨床検査によるサーベイランスと下水サーベイランスのそれぞれの利点と限界を理解し,両者を適切に組み合わせることでCOVID-19の感染制御に有用であると考えられる。

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