日本公衆衛生雑誌
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バイオテロに対する保健師の研修経験および知識・認識の現状
鈴木 良美石田 千絵澤井 美奈子山口 拓允
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ジャーナル フリー 早期公開

論文ID: 23-058

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抄録

目的 Bioterrorism(以下,バイオテロ)は攻撃が秘匿的で潜伏期もあり顕在化するまでに時間がかかり,発見された時には大規模なアウトブレイクとなる場合がある。そのため被害軽減のための早期の検知と対処には,準備態勢の構築が重要である。保健所保健師は,バイオテロの探知と対処の責務を担うものの,準備の状況は明らかになっていない。そこで本研究の目的を,首都圏で保健所の感染症対策部門に勤務する保健師のバイオテロに対する研修経験や知識と,準備の有効性や障壁等の認識の現状を明らかにすることとした。

方法 研究デザインは横断的,記述的研究である。対象は,大都市圏で人口が密集し大規模イベントも多くバイオテロの蓋然性の高い東京都とその近県3県88か所の保健所感染症対策部門の保健師である。郵送法による無記名自記式質問紙調査を2019年に実施し,1か所につき2人の保健師に属性,研修等の経験,知識,認識について質問した。

結果 71人から回答を得た(回収率40.3%)。職場でのバイオテロ研修経験者は10人(14.1%)であった。バイオテロの蓋然性の高い4種の感染症の知識に関して,「聞いたことあり」は95%以上であったが,「症状がわかる」は33.8–53.5%,「治療がわかる」は5.6–16.9%,「テロ対応がわかる」は1.4–5.6%と少なかった。調査の回答者は,バイオテロ発生時の重大性や準備の有効性は認識しているものの,研修を受ける機会や時間は十分とは言えず,対応に自信がなく,研修希望者が多い傾向にあった。

結論 調査に回答した保健所保健師はバイオテロの研修経験や知識,研修の機会や時間が十分とは言えず,バイオテロの準備態勢強化のための研修体制の構築が課題である。今後は保健師基礎教育でバイオテロの存在を知り,現任教育で保健所保健師はオンラインなども活用して一度は研修を受けるとともに,随時情報をブラッシュアップする必要があると考える。保健所ではコロナ禍の教訓を踏まえ,各保健所が「健康危機対処計画」を策定し,2024年度からの運用を始める予定であり,その一環としてバイオテロに対する備えも必須であると考える。

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