論文ID: 24-003
目的 会食を行う「通いの場」は共食の場として高齢者の健康増進において重要だが,その運営維持に資する検討は行われていない。戦略的な公衆衛生プログラムの実施方法として,ソーシャルマーケティングを用いた成功事例がある。本研究では,ソーシャルマーケティングの要素であるマーケティング・ミックスによる戦略的なプログラム作成のフレームワークを用いて,会食を行う通いの場における参加者減少の要因を明らかにすることを目的とした。
方法 本研究は,全国の会食を行う通いの場を対象に,郵送調査にて2019年11月時点の回答を得た横断研究である。各通いの場の主催者が調査票に回答し,調査項目に欠損のない通いの場580か所を解析対象とした。参加者の変化について,開設以来減少しているかを質問紙で把握した。マーケティング・ミックスに基づく整理として,4P(Product, Promotion, Place, Price)のフレームワークに調査項目を分類し,独立変数として扱った。参加者減少を従属変数とした多変量ポアソン回帰分析を行い,prevalence ratio(PR)を算出した。開設期間および調査時点の参加者数を共変量として投入した。
結果 参加者が減少している通いの場は154か所(26.6%)だった。多変量解析の結果,Productに分類される変数では,一か月当たりの開催回数が多いことにおいて,参加者減少のPRが有意に低かった(PR=0.92)。Promotionの変数では,参加者が登録制である通いの場は参加者減少のPRが有意に高かった(PR=1.49)。Placeの変数では,地域の人口密度が高いことにおいてPRが有意に低く(PR=0.90),地域の65歳以上人口比率が高いことにおいて有意に高かった(PR=1.05)。Priceの変数は,参加者減少と有意な関連はなかった。
結論 会食を行う通いの場において,マーケティング・ミックスにおける4Pのうち,Product,Promotion,Placeに含まれる要因が参加者減少と有意に関連し,Priceには有意な関連はみられなかった。今後,多くの会食を行う通いの場が地域に在り続けるために,通いの場の参加者減少の抑制に向けた具体的な展開および評価について検討し,共食による高齢者の健康づくりを推進する必要がある。