論文ID: 24-021
目的 自殺に対する見方や自殺観等の態度は,その予防行動を左右するが,一方,ゲートキーパー(gatekeeper:GK)に関する知識普及の影響を受ける可能性がある。今回,保健師の家庭訪問の下,GKに関する対面式簡易教育プログラムを一般住民に実施し,自殺に対する態度と抑うつへの影響を反復横断デザインにより評価した。
方法 本邦郡部の自治体(人口3,500人)では2013年より行政区域別に順次,全戸訪問を実施した。2015年から2年間実施した区域(介入地区)では全169世帯のうち123世帯に保健師が訪問し,GKの役割やうつ・自殺のサイン,相談方法等を記載したリーフレットを用いて対面で説明した。世帯の応対者の94.5%は40歳以上であった。2021年まで訪問の未実施だった対照地区(158世帯)ではリーフレット配布のみが行われた。介入/対照地区の40~79歳住民を対象とし,本分析では2015年と2021年に施行された悉皆横断調査から得た連結のないデータを用いた。調査項目のうち,自殺に対して「仕方のないこと」,「悲しいこと」等,7つの見方(複数選択法)の選択率,知覚的・個人的スティグマ,抑うつ症状の有症率について,一般化線形混合モデルを用いて介入前後の率比を求め,地区間で比較した。GKに関する知識量を評価するため,プログラム内容に沿って作成した選択式問題の正答数を求め,前後差を認めた自殺への見方との関連性を検討した。
結果 2回の調査の有効回答率(数)は61.8%(介入地区192,対照地区165)と52.8%(同137,120)であった。介入地区では,介入4年後の調査で「(自殺は)仕方のないこと」の選択率が低く(調整率比0.508,P=0.026),また,地区間で変化の大きさに差がある傾向も認めた。介入地区では2種類のスティグマの有症率も低下する傾向を認めたが,対照地区では前後差はなかった。両地区とも抑うつの有症率に前後差はなかった。介入後調査では,GK知識水準の高い群ほど自殺容認態度の選択割合が低い傾向を介入地区のみに認めた。
結論 訪問下対面によるGKに関する知識提供の実施と,自殺容認の態度を示す中高年者の割合の低下が関連していた。本デザイン故に因果関係の検証はできないものの,今回の取組みは住民の自殺に対する態度を変化させる可能性がある。