論文ID: 24-063
目的 2020年の患者調査によると精神障害者数は600万人以上の人が精神科医療を受けている。非自発的入院が存在する精神医療患者への権利擁護を行う者(アドボケイト)の重要性が指摘されている。本研究は,Brashersらが患者のセルフアドボカシーの程度を測るために開発したPatient Self-Advocacy Scaleの日本語版(以下,日本語版PSAS)を作成し,その信頼性と妥当性を検討することを目的とした。
方法 まず原版を研究者5人で日本語に訳し,精神医療利用者5人に予備調査を実施し,質問文を修正した。次に修正した内容を翻訳家が逆翻訳を行い,逆翻訳を原版作成者が確認した。その後,完成した日本語版PSASの妥当性と信頼性を検証するためにオンラインアンケート調査を実施した。アンケートは精神医療利用者の当事者団体に調査協力を依頼し,メーリングリストで周知を行った。再検査法による信頼性の検討のため,一部の回答者には再調査を依頼した。信頼性の検討は尺度全体および下位尺度のCronbach α係数を算出し,再検査との相関係数の結果で評価した。妥当性の検討は,探索的因子分析と確認的因子分析を実施し,さらに各関連尺度(日本語版コントロール欲求尺度,医療に対する自律性に関する尺度,ヘルスローカスオブコントロール尺度)との相関係数の算出を行った。
結果 本調査は214人,再調査48人から有効回答を得た。回答者の診断名は気分障害(48.1%)と統合失調症(40.7%)が大部分を占め,通院期間は46.8%が10年以上だった。尺度全体および下位尺度分析のCronbachα係数は0.66~0.83,再検査の相関係数は0.69~0.84だった。妥当性については,探索的因子分析では原版同様の項目で3因子にわかれ,確認的因子分析ではある程度の適合度を示した(CMIN/DF=2.834,GFI=0.896,AGFI=0.841,RMSEA=0.093,AIC=198.542,CFI=0.888)。関連尺度との相関関係は,大部分の下位尺度との間に有意な相関があった。
結論 日本語版PSASは,一定の信頼性と妥当性が確認された。今後は精神医療利用者のセルフアドボカシーの評価尺度として,権利擁護に関する意識調査の一助になると考えられる。