論文ID: 24-075
目的 健康格差の包括的なモニタリング方法を検討するため,アウトカム指標として国際的に広く用いられている教育歴(学歴)と死亡率の関連を定量化し,その地域差を探索することを目的とした。
方法 国勢調査(2010年)と人口動態統計死亡票(2010–2015年)の匿名化個票データを取得し分析した。「性・生年月・居住市区町村・婚姻状況・配偶者の年齢(既婚のみ)」をリンケージキーとし,これが他の人と重複しない日本人をサンプル人口とした。日本人(30–79歳)7,984,451人(男性3,992,202人,女性3,992,249人:全人口の9.9%)が分析対象となった。確定的リンケージ法で国勢調査個票に死亡情報をリンケージした(5年間の死亡割合;男性:5.6%,女性:2.5%)。全人口とサンプル人口の比から性・年齢・都道府県・教育歴・職業の分布を用いた逆確率の重みを算出し,重み付けした教育歴別年齢調整死亡率,死亡率比とその都道府県比較を分析した。地域については市区町村を都道府県に集約した。教育歴は「中学・高校卒業者」と「大学以上卒業者」の2群を比較した。
結果 全国の男性の年齢調整死亡率(全死因,人口10万人対)は「大学以上卒業者」で1,025(95%信頼区間:1,013–1,037),「中学・高校卒業者」で1,245(95%信頼区間:1,238–1,253)であり,女性で「大学以上卒業者」で496(95%信頼区間:485–508),「中学・高校卒業者」で640(95%信頼区間:636–645)であった。「大学以上卒業者」に比べて「中学・高校卒業者」の死亡率比は男性で1.21(95%信頼区間:1.17–1.26),女性で1.29(95%信頼区間:1.17–1.41)であった。各都道府県において「大学以上卒業者」に比べて「中学・高校卒業者」の死亡率が高い傾向にありとくに男性でこの傾向が顕著であったものの地域差は小さいと示唆された。
結論 わが国において「中学・高校卒業者」は「大学以上卒業者」に比べて全死因死亡率が約1.2–1.3倍高いことが示された。地域ごとにみると男女とも死亡率比のばらつきは小さい可能性が高いが,死因別の考察を含め都道府県レベルの詳細な分析のためにはより精度の高い死亡率データベースの構築が必要である。