日本公衆衛生雑誌
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エビデンスに基づく標準化された新生児・乳児・保護者への家庭訪問の実装に向けた課題:韓国からの学び
吉岡 京子土肥 早稀池田 真理橋本 英樹
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論文ID: 24-133

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抄録

目的 日本の新生児・乳児に対する家庭訪問事業は,母子保健法と児童福祉法に基づき実施されてきたが,地方自治体ごとに多様化している。大韓民国(韓国)の科学的かつ標準化された家庭訪問事業の現状と課題を整理し,日本における実践上の示唆を得る。

方法 研究者の機縁により,ソウル国立大学医学部の関係者と公表済み資料から情報収集した。

結果 韓国では2歳までの児と母親を対象とするMaternal and Early Childhood Home Visiting Programを導入し,「Family Partnership Model」に基づき看護師・ソーシャルワーカーと保護者のパートナーシップ構築を重視していた。ソウル市で2013年に始まった「Seoul First Step Project」は2019年に「Early Life Health Management Program」として全国展開された。Social ecological model,Proportionate universal approach,Life course approachを併用し,全希望者への基本訪問と手厚い支援の必要な家庭への継続訪問を実施していた。出生数に対する事業のカバー率は,ソウル市では約3割であった。看護師の人員不足に対応するため,母親同士が育児方法について学ぶ集団プログラムや,保護者向けの育児手引書やリーフレットの作成・配布を併用していた。科学的かつ標準化された家庭訪問を行うために約320時間の現任教育プログラムを開発していた。さらに,家庭訪問の質を担保するため,定期的なスーパーバイズとリフレクションの機会を設け,米国のHomVEEを参考に家庭環境や児の安全,発育・発達,母親のwell-being,地域のサポート等の多面的な評価指標を採用していた。

結論 韓国では,大学・行政機関と医師・看護師・ソーシャルワーカーの深いパートナーシップを土台とし,科学的根拠に基づく制度設計,現任教育と評価指標の標準化を実現していた。日本はきめ細やかな家庭訪問を高い実施率で行ってきたが,現任教育や評価の面では見直す余地が多くある。健康の不平等を人生の早期段階から解消するためには,実践可能な形でエビデンスを活用し,関係者が互いの良さを活かしながら家庭訪問事業の質を改善する必要性がある。

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