抄録
2種類のジメチルピリジンをプローブにした昇温脱離法 (TPD) により, (VO)2P2O7触媒の酸性質を測定した。また, ブタンの選択酸化による無水マレイン酸生成反応を行った。(VO)2P2O7触媒には, 有機溶媒中で調製したVPO-org, VOPO4·2H2Oの還元により調製したVPO-redu, および水溶液中で調製したVPO-aqの3種類を用いた。3,5-ジメチルピリジン (3,5-DMP) はBrønsted酸点, Lewis酸点の両方に吸着し, 一方, 2,6-ジメチルピリジン (2,6-DMP) は二つのメチル基の立体障害によりBrønsted酸点に選択的に吸着する。ゆえに, 3,5-DMP-TPDスペクトルと2,6-DMP-TPDスペクトルから, Brønsted酸点, Lewis酸点それぞれの酸量, 酸強度を求めることができる。TPDスペクトルから, (VO)2P2O7触媒には, 強いBrønsted酸点とLewis酸点, 弱いBrønsted酸点とLewis酸点の4種類が存在することが分かった。また, 酸性質は触媒の調製法により大きく異なった。VPO-orgには, より多くの強いBrønsted酸点が存在し, かつその酸点は他の触媒に比べてやや弱かった。VPO-reduには, より多くの強いLewis酸点が存在した。VPO-aqの酸量は少なかった。低転化率域での無水マレイン酸選択率は, 強いLewis酸の酸量に依存した。このことから, 強いLewis酸点が無水マレイン酸生成に対して重要な役割を持っていることが示された。無水マレイン酸の逐次酸化によるCOx生成に関しては, 強いBrønsted酸点がこの逐次酸化を促進していることが示唆された。