本総説では,糖類や糖アルコール類から有用な化学品を合成するための高性能な固体酸触媒の開発に関する我々のこれまでの取り組みを解説する。ルイス酸点とブレンステッド酸点の両方を有したゼオライトベータがグルコースから5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)へのワンポット合成に対して有効な二元機能触媒として働くことを見出した。特に,Al原子密度の高いゼオライトベータのルイス酸点とブレンステッド酸点の密度を制御することで,70 %以上の高収率でHMFの合成を達成した。また,フルフラール類を有用化学品に誘導体化するための触媒の開発にも取り組んだ。ハフニウム含有ゼオライトベータや低原子価チタン酸化物微粒子の新しい合成法を確立し,それぞれフルフラールの移動水素化,アセタール化に極めて高い活性を示した。さらに,Al原子密度の低いゼオライトが水中でのソルビトールからイソソルビドへの脱水反応に対して高い活性を示すことを見出した。このようなゼオライトは固体表面が疎水的であるため,水による失活が起こりにくく,高温の水中でも高い活性と高い耐久性を発揮した。
原油や天然ガスには微量の水銀が含まれており,簡便な除去法の開発は緊急の課題である。本研究では,石油中での活性炭吸着剤の水銀除去性能を評価するための基礎的実験として,酸性官能基量の異なる(0.30~0.60 mmol/g)活性炭を用いたヘキサン中での金属水銀(Hg0)吸着実験を行った。酸性官能基量の増加に伴いHg0吸着量も増加したことから,酸性官能基量がHg0吸着量を決める因子の一つであることが明らかとなった。活性炭の簡略モデルとしてピレンを用い,ピレンと結合した酸性官能基(アルコキシ基,エーテル基,カルボニル基,ヒドロキシ基,カルボキシ基)の酸素原子にHg0原子が近づくと仮定し,B3LYP/LANL2DZを用いたDFT計算よりΔEAds(=(生成系のエネルギー)-(原系の全エネルギー))を求めた。ΔEAdsは,アルコキシ基(40.98 kJ/mol)>エーテル基(34.60)>カルボニル基(−0.78)>ヒドロキシ基(−1.95)>カルボキシ基(−5.00)の順となり,5種類の官能基の中でカルボキシ基がHg0と最も安定な錯体を形成することが示唆された。さらに,カルボキシ基の効果を検証するためにカルボキシ基を修飾したシリカを用いて,ヘキサン中のHg0吸着量を測定した。その結果,シリカにおいてもカルボキシ基量の増加とともにHg0吸着量が増加することが分かった。
水熱合成により,5員環ユニット({Mo6O21}6−)と酸素八面体の配列により形成される高次構造Mo–Cr複合酸化物(HDS-MoCrO)の合成に成功した。水熱合成時間を変化させて得られた固体と液体を分析することで,水熱合成初期にはアンダーソン型ヘテロポリ酸((NH4)3H6CrMo6O24 · 7H2O)が生成し,経時によってケプラレート型ヘテロポリ酸(Mo72Cr30O252)が,さらにはHDS-MoCrOが形成されることが分かった。ケプラレート型ヘテロポリ酸およびHDS-MoCrOとも{Mo6O21}6−で構成されていることから,水熱条件下,ケプラレート型ヘテロポリ酸が分解して{Mo6O21}6−を供給することで,HDS-MoCrOが形成されると考察した。構成元素の異なる3種の高次構造複合酸化物であるHDS-MoO,HDS-MoFeO,HDS-MoCrOを用いてエタノール選択酸化反応を行ったところ,これらはいずれも同様の触媒活性を示したが生成物の選択性は異なった。HDS-MoCrOは広い温度域で高いアセトアルデヒド収率(91 %)を示し,その収率は少なくとも60 hは安定していた。
フィッシャー · トロプシュ合成(Fischer–Tropsch synthesis; FTS)を経由したCO2水素化反応(CO2-FTS)による液体炭化水素(C5+)の効率的な合成を目指し,炭化鉄触媒(FeCx)へのカリウム添加効果を調べた。シュウ酸鉄二水和物に硝酸カリウムを加えCOガス流通下で熱分解することで,カリウム含有量の異なる炭化鉄触媒(K–FeCx)を調製した。K(z)–FeCx触媒(K/Fe=z/100,z=0, 1, 5, 10: モル比)上でのCO2-FTS試験によって得られたC5+,others収率とCH4収率を比較した。K(1)–FeCx触媒を用いた場合は比較した触媒の中で最も高いC5+,others収率が得られた。さらに,K(1)–FeCx触媒はカリウムを含まない触媒に比べて副生するCH4の収率が低くなった。K(1)–FeCx触媒はFTS反応の活性点であるχ-Fe5C2相を最も多く含んでいるとともに,過剰にカリウムを加えた触媒と比べてカリウム自身によるFTS活性点の被覆が少ないため,液体炭化水素収率が向上したと考えた。