2018 年 61 巻 1 号 p. 1-9
カルボニル化合物は自然界に広範に存在する重要な化合物群である。これら化合物の迅速かつ高効率な合成手法の開発は,複雑な分子の合成が求められる近年の有機合成反応開発において極めて重要な課題である。遷移金属錯体触媒を用いる合成反応はカルボニル化合物を得るための強力な手法の一つであり,一酸化炭素をカルボニル源とする反応は古くから活用されてきた。しかしながら,一酸化炭素は有毒なガスであり取扱いが困難であることや,一酸化炭素の金属への過剰配位による触媒失活がしばしば問題となる。近年では,一酸化炭素を用いないカルボニル化合物の合成法開発が注目を集めている。本総説では,均一系遷移金属錯体触媒を活用し,ギ酸エステルまたはホルムアミドを原料とするカルボニル化合物の合成反応について述べる。我々が開発したパラジウム触媒を用いた例として,ギ酸エステルおよびホルムアミドを用いたアルキンのヒドロエステル化反応およびヒドロカルバモイル化反応を取り上げる。これらの反応は,原子効率の高い付加反応の形式で反応が進行する。また,ギ酸エステルを用いたパラジウム触媒による臭化アリール類のエステル化反応についても紹介する。銅触媒を用いた例として,ギ酸エステルをカルボニル源とした1,2-ジエン(アレン)のボラホルミル化反応およびシラホルミル化反応を取り上げる。いずれの反応においても,反応最適化,基質適用範囲ならびに反応機構について述べる。